Chapter08.太陽~輝く光~

 あれからみんなの元へ戻ったオレたちは、そこに新たに目付きの悪い金髪の青年と、黒い髪を頭の上で纏めて短めのポニーテールを作っている女性がいることに気付いた。

 誰だろう、と首を傾げていると、先ほど『ルー』と名乗った赤髪の子供が“双騎士ナイト”の“召喚者”なのだと紹介された。



「で、こっちの彼がルーの“契約者”、カイゼル・ビョルネ」


 リウの紹介に、ムスッとした表情でルーの隣に突っ立ってる金髪の青年を見る。


「ふ……不良……?」


「に、見えなくもないですネ……」


 金髪ってだけならまだしも、失礼ながら目付きの悪さだとか纏う雰囲気からすると、オレたちの世界ではいわゆる不良と呼ばれるような……そんな人のように見える。


 深雪と二人で思わず一歩後退すれば、カイゼルという名の青年に案の定睨まれた。


「誰が不良だ誰が」


「どう見てもアンタが、だろ」


 そんな彼にツッコミを入れたのは、黒髪の女性だった。どうやらこの世界にも不良というのはいるらしい。

 物怖じしない度胸のある女性に、オレは名を問う。


「ていうか……お姉さんは一体……?」


「ああ、アタシは桜爛オウラン。コイツらのお守り役で、ただの船乗りさ」


「ふ……っ船乗り……!?」


 なるほど、それは不良相手には物怖じなどするはずもないわけだ。むしろ彼女の方がキツそうな印象を受ける。

 少したじろいでいると、不意に子供のかん高い声が聞こえた。


「おうらんおねえちゃんはいいヒトだよ、こわくないよ!

 ぼくとカイゼルおにいちゃんをまもってくれるし、やさしいし!」


 舌っ足らずな口調で一生懸命桜爛さんをフォローするルーが、そこにいた。


「だから、こわくないよぅ!!」


 必死に、他人を。誰かを。

 オレは……そんなこと、あったっけ……?

 誰かを庇う為に。誰かに庇われることを。


 ――必死、に……――


(アンタなんて、……――)


「……夜」


 手に温もりが触れる。朝だ。

 周りを見渡すと、みんなが心配そうにオレを見ていた。


「夜くん、大丈夫ですか?」


「疲れてるんじゃないのか?」


「ムリすんなよー?」


 深雪が、ソレイユが、イビアが心配そうに声をかけてくれる。


「ちょっと座ってなさい、ハーブティー淹れてあげるから」


「ほら、木陰にでも行くぞ」


 リウが紅茶を淹れる準備して、カイゼルがオレの腕を引っ張って木陰に連れて行ってくれた。


「全く……体調悪いならさっさと言えってんだ……」


「まあまあ。でもホントに大丈夫か? 顔色悪いぞ?」


「…………」


 レンがぶつぶつと文句言いながらも心配してくれて、桜爛さんもそんなレンを宥めながら心配してくれて、黒翼も相変わらず無言だけれど着いてきてくれる。


「夜、大丈夫だよ。大丈夫だから」


 朝は、ずっと手を握ってくれていた。


 ――……うれし、かった。オレはただ、それだけで……。



「よるおにいちゃん」


 木陰に座らされたオレの隣に、ルーがちょこんと座る。


「ごめんね」


「な、何だよ急に」


 泣きそうな顔で突然謝られ、オレは慌てる。謝られるようなことは、何一つされていないはずだ。


「……ぼく……ヒトのかんじょうを、よけいにひきだしちゃうっていうか……さっきみたいなこと、よくあって……。

 よるおにいちゃんみたいなヒトは、とくに」


「ええっと……話がよくわからないけど……。

 つまり……オレの体調が悪くなったとかってのはお前のせいとかそういうこと?」


 もちろん、本気でこの子供のせいだなど思ってもいないけれど。問えば、彼はコクリ、と頷いた。


「うん。……ごめんね、そんなつもりはなかったの……」


「わかってるよ、大丈夫。

 お前は桜爛さんを庇いたかっただけだろ? ならいいよ別に。

 お前が謝る必要なんてないよ、ルー」


 むしろ、見た目だけで警戒してしまったオレに非があるのだ。

 そう言ってぽふぽふと触り心地のいい赤い髪を撫でてやれば、ルーはやっと笑顔になった。


「けど、オレみたいな人って……?」


「うん……。あんなになったのはおにいちゃんだけだけど、その……じぶんをせめすぎちゃうヒトっていうか……」


 ……オレがいつ自分を責めすぎたのだろう。子供の言葉にきょとんとしていると、彼は更に続けた。


「みゆきちゃんみたいにひらきなおっちゃったり、こくよくおにいちゃんみたいにココロをとざしちゃったりしちゃうと、こんなこと、ないんだけどね」


 それがいいってことじゃ、ないんだけど。

 悲しそうな顔でそう語るルーを横目に、申し訳ないがオレが今一番気になったのは深雪の呼び方だった。

 そう言えば、あいつは男なのだろうか、女の子なのだろうか。

 地元紙の報道によると確か……あれ、どっちだっけ……?


「だからね、よるおにいちゃん」


 全く違うことを考え始めたオレの思考を戻すように、ルーは真正面からオレを見つめた。


「自分を責めすぎちゃ、ダメだよ」


 ふわり、と笑うその子供があまりにも眩しくて、オレは思わず話題を反らす。


「……てか、何でお前……深雪や黒翼のこと、知ってるんだ?」


「ぼく、ヒトのかんじょうが、なんとなくわかるの。そこから、そのヒトのことがだいたいわかるんだよ。

 そして、それがわるいかんじょうなら引きだして……みちびくの」


 こいつは、ルーは、オレを導くというのだろうか。


(……一体、オレの何を導くのだろうか?)


「それが、【太陽神】としての、ぼくの役目」


 ルー・トゥアハ・デ・ダナーン。ケルト神話における神の名。ダーナ神族のルー。【太陽神】。

 笑う子供は、とても綺麗で。



「……太陽の光だ……」



 オレには不釣り合いだよ、ルー。


 +++


 リウが淹れてくれた紅茶を飲みながら休憩している時に、そいつは突然やってきた。


「よぉ、勇者ども! 今日こそ首を頂きに……って、うわー! 何か人数増えてるーっ!!」


 このテンションは、言うまでもなく“黒き救世主ダークメシア”のメンバー、リツだ。

 彼は元気に登場した割に、多人数なオレたちに驚いている。


「誰だあの愉快な少年は」


「お知り合いですか?」


 ソレイユと深雪がレンに尋ねる。……まさか敵だとは思わないだろう。


「本人曰わく“黒き救世主ダークメシア”の一員……らしい」


 先日の戦いから、どうやらレンも彼が本当に敵なのかと疑っているらしい。……まあ、仕方がないとは思うけど。


「ふははははっ! しかし今日のオレには強力な仲間がい、」


 ――バシッ!!


 仁王立ちして叫んでいる途中のリツの頭を、誰かが後ろからぶん殴った。


「リツ……うるさい……」


 そこにはリツと同い年くらいの女の子がいた。緑の髪で、耳が猫を思わせるそれになっている。


「い、いわゆる半獣人ビーストクォーターってやつですか……」


 さすがファンタジーの世界。実際にいるんだな、獣人って。

 オレが一人でそう感動していると、彼女の後ろから多種多様な魔物たちが現れた。


「……どうやら“獣使いビーストテイマー”みたいだな」


 レンの一言に、深雪たちも一斉に身構える。戦闘前のピリピリとした空気が、場を包み込む。


「お、オレも……!」


「君はまだ本調子じゃないからダメ」


 それに釣られて慌てて立ち上がろうとしたら、朝がそっとオレの腕を引っ張って制止させた。

 ……どうやら、今回は控えメンバーのようだ。


「朝、ルー! 夜とリウを頼んだぞ!」


 レンの言葉に、朝とルーが頷く。朝はともかく、子供に守られるのはなかなかに情けない。


「時には他の人の戦いを見るのも大事なことよ」


 不満げなオレに気付いたのか、リウは苦笑を浮かべてそう言ったけれど。



 ――オレは、何もできない自分が、何よりも腹立たしかったんだ……――



 Chapter08.Fin.

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