Chapter05.発動~ふたりの力~
次の日、朝早くから野営地を出発したオレたちは、早速オレの修業の為にモンスターを探していた。
……一気にレベルが上がるようなモンスターはいないのだろうか。
そんなオレの考えもむなしく、目の前にクマのような大型のモンスターが現れた。
「……よし。コイツを夜、朝。お前らだけで倒してみろ」
レンの言葉に、オレはしぶしぶ剣のスイッチを押し、朝も身構える。
「ていうか……コイツの情報とかねぇの?」
「……コイツはクリフ。ベア族だ」
名前くらいは教えてほしい、と呟けば、彼が答えてくれた。クマだからベア族なのか?
……それにしても。
「何で朝も修業?」
「いいからとっとと行け!!」
朝はオレよりも強いわけだし、一緒に修業をさせる必要なんてないんじゃないか?
そんな疑問を口にすれば、いい加減痺れを切らしたらしいレンに怒鳴られてしまった。
+++
「さて……倒す……ねぇ……」
自分の身長の倍くらいの大きさのクリフを見上げて呟く。しかし無反応なそいつは、オレたちのことは眼中にないらしい。
「よーし、一気に行くぞ朝!」
チャンスだ、と思い剣を握り直して、オレはクリフに切りかかる。
「……!! ま、待って夜……ッ!!」
朝が慌てたような声を出すが、オレの剣は既にクリフに刺さっていた。
え、と思って朝の方に振り向こうとした瞬間、オレは何かすごい力によって吹き飛ばされてしまった。
「っ夜ッ!!」
「うお……頭打った……超いてぇ……。つか何さっきの!?」
うまく受け身を取れなかったせいで頭を打って蹲るオレに、朝が駆け寄ってきて説明をしてくれる。
「クリフはね……自分が攻撃されると凶暴化して……」
「きょ、凶暴化ぁ!?」
「それで……相手を倒すまで暴れ続けるん、だ!」
オレたちの元に走ってきたクリフを、朝が喋りながら防御壁を作って防ぐ。
ていうか凶暴化って何だそれ、聞いてないぞ!
「レーーンーーッ!!」
とりあえず元凶であるレンの名を叫んでみるが、彼はリウと一緒にオレたちから随分離れた所でオレと朝を見守っていた。
「……あ、朝! どうしたらいい? どうしたら倒せる!?」
とりあえずレンへの文句は全部後回しにすることにして、オレは朝を見やった。
「そ、そんなの僕に聞かれても……う、わぁ!?」
「朝っ!!」
少し隙を見せた瞬間、クリフが朝の体を横殴りにした。
朝は意識を失ったのか動かない。あんな巨体に殴られたのだから当然だろう。
――オレは……どうすれば、いいんだろう。
「う、わぁぁぁぁぁーーッ!!」
オレは走り出して、剣を滅茶苦茶に振り回す。これで倒せるとは思っていない、しかし黙って倒されるよりかはマシだと思った。
そう……何かしなければ。動かなければ。焦った心がちりちりと痛い。
巨大なクマはそれでも怯まずにオレへ向かってくる。正直、かなり怖い。
だが、何とかしなければ……そう、倒さなければ。
倒さなければ……!!
「よる」
背中に突然ぬくもりを感じる。朝だ。
「大丈夫。君一人で背負わなくていいんだよ。大丈夫だから……」
その声に安心して、肩から力が抜ける。
ケガは、とか、お前こそ大丈夫なのか、とか、そんな言葉が脳裏をよぎるもどれも音にはならなかった。
「大丈夫。今は『
ずっと、ずっとひとりだったんだ。だからひとりで背負おうとした。
涙も、辛さも、痛みも……存在の重さも。
だけど、彼は言った。もういいのだと。
……たったひとりで背負わなくても、いいのだと。
(君はひとりでそうして泣いていた。だけどもう、そんなことは……させないから、絶対に……)
ひとつはふたつに。ふたつは、ひとつに……――
その瞬間、目を開けていられないほどの光が、草原を包んだ。
「“同化”……!」
そう呟いたのはリウだろうか。
目を開いて最初に見たのは、『自分であって自分ではない』存在の体だった。
――何が起こったのだろう。
そう思ったのも束の間、心の中に別の魂……朝がいるのに気づいた。
ふたつは、ひとつに。オレたちは、“ひとり”になったのだ。
驚きはしたものの、不思議と恐怖心は消えていた。
そう理解すると、オレであってオレでない存在は、その背に生えた漆黒の翼で飛び上がった。それはオレの意志であり、朝の意志でもある。
どこからか取り出した蒼い剣に風を纏わせて、巨大クマ……クリフをその頭上から真っ二つに切り裂いた。
『ギャアァァァーーー!!』
断末魔をあげながらその魔物が青空に消えていったのと同時に、オレたちもそれぞれの姿に戻っていた。
+++
「な……なん、だったんだ? アレ……」
自分の手を見て、オレは呟く。朝もぽかんとしている。
ひどく疲れているが、不思議なことに充足感も感じていた。
「すごいじゃない、二人とも!」
「さすがだな。読み通り“同化”したか」
離れた場所に避難していたリウが、オレたちに駆け寄ってきた。
その背後から歩いてきたレンは素直に感心している。
……ん? 読み通り……?
「……ってまさか、レン! お前そのために!?」
「一時はどうなるかと思ったが……結果オーライだろ」
オレの言葉にレンはニヤリと笑う。……まさかそのためにあんな危険な目に合わせたのだろうか、この魔術師は。
「くぉぉぉぉっ! この策士めっ!!
一歩間違えたら死ぬところだったぞ!? 頭打ったところまだ痛いし!!」
「し、したたか……」
さすがの朝も呆然としている。り、理不尽だ……!
「まあまあ、二人とも。よかったじゃない“同化”できて。それがあなたたち二人の力だよ」
「オレたち二人の……」
「力……」
リウが優しく微笑んで、オレと朝は顔を見合わせる。
……そうだ、あの瞬間オレを支えてくれたのは、紛れもなく朝なんだ。
改めてそう理解すると、嬉しくてむず痒くて……とても暖かな気持ちが溢れてきた。
「へへ……そっか。これからもよろしくな、朝!」
「な……何、急に……」
笑って素直な気持ちを伝えると、朝は怪訝そうな顔をしながら後退った。
だけどそんなことも気にならないくらい、オレは嬉しかった。
オレに《初めて》理解者が出来たということが……この時のオレには、それがただ……ただ、嬉しかったんだ……朝……。
Chapter05.Fin.
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