Chapter04.始動~黒き救世主~
モンスターとの初バトルから数時間後、オレたちは無事に最初の街・ドゥーアに着いた。
ドゥーアはオレが元いた世界……地球で言うところの中世的な建造物が建ち並ぶ、どこか穏やかな時間が流れる静かな街だった。
「よっし! 探検行こうぜ!!」
宿屋を確保してからそう言えば、リウは「疲れたから行かない」の一点張り、レンは「リウを残して行けない」とか何とかで、結局オレは自分そっくりな悪魔と街を探検しに行くことにした。
「そこまでして探検したいの?」
面倒くさそうな顔をして、朝は言う。
「したい! だってこんな場所初めてなんだぜ!?」
こんな綺麗な場所を見て回れる機会なんてなかなかないだろうし、と笑えば、彼は溜め息を吐いた。
(それでも、何だかんだでオレを一人にしないきみの優しさに、オレはまだ気付けなかった)
そうして二人で街を歩いていると、ふとどこからか歌声が聴こえてきた。
「うわあ、吟遊詩人ってやつかな? 朝、行ってみようぜ!」
「ちょ、ちょっと夜、待ってよ……!」
そう言ってオレたちは歌声のする方向へ駆け出した。
しばらく走っていると、噴水のある大きな広場に出た。歌声の主は、その場所で厳かな雰囲気で歌を披露している。
「うわ……すげー白いし、綺麗……」
思わずそう呟いてしまうくらい、その歌唄いは綺麗だった。
白い肌、白い髪、白い服。違う色と言えば、瞳の真紅くらいだ。
「……綺麗な声だね」
「うん」
追いついたらしい朝が漏らした感想に頷くと、やがて終わったのか歌声が止み、周りにいた観客たちが拍手をし始めた。
何気なく歌唄いを見ているとばっちり目が合ってしまい、どうしようかと悩んでいると、その人はふわりと微笑んだ。
「うわー……可愛い……」
ぼそっと呟くと、隣の悪魔に冷ややかな目で見られた。
彼から視線を戻すと、いつの間にかその歌唄いはいなくなっていた。不思議な子だ……。
「また逢えたらいいなあ……」
「逢えるよ」
オレの言葉に、朝は無表情で、しかし自信を持って言った。
う……運命の出逢いってやつだろうか……!!
悪魔が再び溜め息を吐いたのは、見てみないフリをする。
+++
そんな不思議な出来事があった翌日、オレたちは早くもドゥーアの街を出た。
「次の街まであとどのくらいかかんの?」
すっかり日も暮れた頃、オレはレンに尋ねる。レンは地図を見て、少し考えてから教えてくれた。
「半日はかかるだろうな」
「ええー! じゃあ今日は野宿なの!?」
そんな答えに不満の声を上げたのはリウだ。やはり女の子、野宿は嫌らしい。
「……仕方ないだろ、我慢しろ」
「うぅー……ふかふかのベッド……」
「いいじゃんか野宿! 楽しいって絶対!」
「そうだぞ! 月や星を眺めながら眠れるってすごい贅沢だ!」
レンの言葉に不満げな顔をしたリウを慰めようと声をかける、オレと知らない奴。
……って、あれ?
「う、うわあっ!? 誰だお前!?」
オレはいつの間にか隣に現れていた見知らぬ少年に驚き、レンと朝は戦闘態勢に入る。
「え? ……ああっ!? しまった、つい!」
何が「しまった」で「つい」なのか。
右目に眼帯をしているのが特徴的な黄土色の髪の少年の慌てように、オレとリウはポカンとする。
「お、オレは“
お前らの首を頂きに来た!」
リツ、と名乗った少年は、剣を構えてそう叫んだ。……そんな簡単に名乗っていいのだろうか?
「っていうか……ダークメシア……って、リウを狙ってるとか言ってた、アレ?」
「ああ、そうだ」
オレがレンを見上げて聞くと、彼は少年を睨んだまま頷いた。
「……あんな奴で大丈夫なのかな……」
色々と不安になりながら、オレは自分の剣を構えてスイッチを押した。
低い稼働音を立てて、剣は刃の部分を出現させる。
「!! うわ……何それ!? 超かっけぇ!」
すると、突然リツが大声をあげた。
それ、とはどうやらオレの剣のことらしい。得物を誉められ、オレは途端に上機嫌になる。
「ふっふっふっ……これは悪を粉砕する光の剣だ!」
「うわー!! いいなぁ、オレもそんな剣がよかった!!」
「はーっはっは。残念だけどあげられないな! オレ専用だからな!」
少し意味不明なことを言ってしまったけれど、なんだか彼とは仲良くなれそうだ!
「ってバカ! アホ! なに敵と仲良くなってんだ!!」
「「………………ああっ!?」」
レンの言葉に、同時に声をあげるオレとリツ。
しまった、すっかり忘れそうになってたけどコイツは敵で、リウを狙う奴だった!
「うわあ!? よ、よし! 勝負だリツ!!」
「ふ、ふん!! ひよっこ勇者に何が出来んだよ!」
「……言ったなぁ! 誰がひよっこだ!! 後で後悔させてやる!!」
リツの挑発にいとも簡単に乗ってしまったオレは、自分の出来る限りの全速力で走り、一気に間合いを詰めて剣を振る。
だがその攻撃は彼の剣に難なく受け止められてしまい、慌ててリツから離れる。
「なんだよ、そんなもんかよ“召喚者”の力ってのはよ!?」
次はオレからだ、と言いながら、リツが二本の剣を構えてオレの元へ走ってくる。
あっという間に詰められ、避けられない、と思う間もなく彼の剣が振り下ろされる。
「夜っ!!」
悲鳴を上げたのはリウなのか、それとも朝なのか。受け止めた剣は重くて、オレはバランスを崩し倒れた。
トドメだ、と言わんばかりに、リツは倒れたオレに向かって剣を振り下ろそうとする。
……だがその瞬間、突如起こった激しい風が、リツを吹き飛ばした。
「うわぁぁぁぁっ!?」
リツの悲鳴を聞きながら何とか起き上がり振り向くと、朝が傍に立っていた。
「……僕の相方は殺させないよ」
どうやら先ほどの風は朝の魔法らしい。ギガスライムの時といい、コイツの属性は風のようだ。
「くそ……多勢に無勢は卑怯だろ……! ちくしょう、今日は退いてやる!」
一対一ではなくなったからか、リツが後退する。
「逃がすかよ」
レンが咄嗟に手を翳して詠唱態勢をとるが、リツが逃げる方が早かった。どこからか大きな鳥が飛んできて、リツを捕まえて去っていったのだ。
「な……何だアレ……」
あんな巨鳥もいるんだな、この世界……。
場違いな感想を呟くオレに、朝が声をかける。
「……夜。ケガ、ない?」
「あ、ああ。さっきはありがとうな」
心配そうなその声に、オレは大丈夫、と笑い助けてくれたことへの感謝を述べる。
「うーん……やっぱりもうちょっと修業が必要ね!」
「しゅ……修業、ですか……」
相変わらず今までどこにいたのか謎なリウの言葉に、オレは顔を引き攣らせた。
「立派な勇者になるなら頑張らないと!」
「“ローマは一日にしてならず”だよ、夜」
リウがそれはもう楽しそうに言い、朝が哀れみを含んだ目で見る。
ていうか朝、お前何でそんな言葉知ってんの!?
――兎にも角にも、修業をすることになったオレ。
明日から頑張りましょ、と笑うリウに溜め息を吐きつつ、黙々と野宿の準備をしてるレンを手伝うことにした。
ここ数日でたくさんの運命の歯車が、ゆっくりと……だが確実に動き出したことに【予言者】以外の者は気づかぬまま……。
Chapter04.Fin.
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