Chapter06.修業~運命の交差~
オレと朝が“同化”をする、という出来事から約二時間後、オレたちはまだ草原にいた。
そこら辺にいるモンスターを、修業と称してオレ一人で倒していたからだ。
しかしやっぱり、何事にも限度と言うものがあるわけで。
「レーンーーっ! いい加減休ませろー!」
実はこの二時間、殆ど休みなしで戦わされている。
確かにレベルを上げたい時は片っ端から倒していくのが一番なのだろうが、それはRPGなどのゲーム内での話であって、現実ではかなり厳しいものがある。
とどのつまり、オレはすでにくたくたに疲れているのであった。
「う、わぁ!?」
「ほら、ぼけっとしているとやられるぞ!!」
脳内でぶつぶつと文句を言っていたら、目の前にオレの腰ほどの高さがある動く葉っぱが現れた。
レンの言葉に、オレは慌ててその葉っぱの魔物から一度距離を置く。
「てりゃあぁっ!!」
そしてそれに向かって一気に剣を振り下ろすと、魔物は二つに割れて消滅した。
どうやら、この剣にも結構慣れてきたみたいだ。
「……まあいいだろう。しばらく休憩だ」
ようやく下りた休憩の許可に、オレは大きく伸びをした。
草原の空は、未だに青を映している。
+++
「……おつかれ、夜」
「はい、紅茶」
朝とリウが待機していた場所に戻ると、朝に声をかけられ、リウから紅茶を貰った。……一体どこにティーセットを隠していたのかは聞かないでおこう。
「……ヘトヘトだね、夜……」
「当たり前だろー……何なんだよあのスパルタ教育!」
剣を振りすぎて腕が痛いし、動き回って体のあちこちも痛い。……実は、運動神経はあんまり良くなかったりする。
「全く……異世界のガキってのはここまで体力がないのか」
呆れたようにレンがため息を吐く。
いやいや、確かに体力はない方だけれど、それでも頑張った方だと思う。むしろ褒めていただきたいところだ。
喋る気力もないので、オレは脳内でそうツッコミを入れる。
「レン、あんまり夜をいじめちゃダメよ?」
苦笑いをしながらリウが諭す。隣で悪魔が呆れたような目で見ているが、オレは気にせずこくこくと頷いた。
そういえば、今気付いたのだが。
「……朝ってオレ以外と話さないな……」
「あっ! それ思ってたの! さっき夜が修業してた時もずっと無言でねー」
何度か話しかけても無視されちゃって。そう言ってリウは困ったように首を傾げた。
なるほど。ただ大人しい性格、にしては何か違う気がする。
「……つまり、オレらとは会話する価値がないってのか」
レンが朝を睨むと、彼は黙ったまま頷いた。
……ああ、人見知りとかじゃなくてそういう理由だったんだ……。
「え、えーと、朝。たまにはオレ以外の奴とも話した方が……なんて言うか、お前にとっても良いと思うんだけど」
レンとの間に険悪な雰囲気が流れそうな朝に、オレは恐る恐るそう提案してみる。
彼は少し考える素振りを見せた後、ぽつり、と呟いた。
「……夜がそう言うなら……考慮するよ」
……こ、考慮ですか。つい漏れてしまった呟きに、朝は顔を背ける。
まあ、ゆっくりでいいよな。ゆっくりリウやレンとも話していって、心を開いてくれたらそれでいいや。
オレは一人で納得して、朝の頭を撫でたあと再び大きく伸びをした。
(きみが他人に心を閉ざす理由なんて、知る由もなく)
「……よし、修業を再開するぞ」
タイミングよく放たれたレンの声に思わずため息をついてしまったのは、仕方がないことだろう。
+++
次に現れた魔物は、とにもかくにもデカかった。
見た目は大人しそうな犬……もとい狼なのだが、この手の魔物が凶暴なのは先程の巨大クマで嫌でも身に染みていた。
「……オレのレベルじゃ背伸びしてもちょっとムリかなー……」
レンに助けを求めようと後ろを振り向くと、彼に背中を蹴られた。
「……ってぇ!! 何すんだよ!?」
「やる前からムリと諦めんな。もしもの時は助けてやる」
まさに今もしもの時なのだが! と抗議をしようとして、ふとレンの更に後ろで心配そうな顔をしている朝が目についた。
……朝……。
「あーーーーっ!!」
「うお。何だ急に……」
急に大声を出したことでレンに驚かれてしまったが、そんなことを気にしてる場合じゃない。
「朝っ!!」
相棒の名を呼んで、手招きする。すると彼は首を傾げながらもオレの元へ駆けてきた。
「……何?」
「“同化”すればいいんじゃん!!」
訝しげに見つめてくる朝に満面の笑みで言えば、彼は今度は困惑した表情になった。
「……っていうか……夜」
「何だよ? 早くしようぜ!」
「やり方……知らないんだけど……」
……なんということだ。あれは奇跡だったのか……!!
オレが愕然としていると、痺れを切らしたらしい狼がオレと朝を目掛けて攻撃をしてきた。
「危ないっ!!」
リウともレンとも違う声が聞こえたと思った瞬間、銃声と札のようなものが飛んできた。
それらは狼に当たり、狼は断末魔をあげながらやがて消滅した。
「ふう……危なかったですネ。大丈夫ですかー?」
あっという間の出来事に呆然としていると、オレたちから離れた場所からふんわりとした声が響く。
「あ……っ! お前、ドゥーアにいた……!」
振り向いたその先にいたのは、ドゥーアの街で見かけた白髪の歌唄いと、見知らぬ三人だった。
「全く、魔物を前にして相談なんて……のんきだな、お前ら」
ふー、と苦笑いを浮かべる金髪の青年。
「まあまあ、間に合ってよかったぜ。ナイスタイミングだったなー、オレたち!」
無邪気そうに笑うオレンジの髪の青年。
「ふふ。お怪我はありませんか?」
にこっと優雅に微笑む白髪の歌唄い。
「…………」
黙ったままオレたちをじっと見つめている琥珀色の髪の少年。
オレたちの運命が、交差した瞬間。
……痛みを湛えた物語が、始まったんだ。
(――本当は、心のどこかで気付いていた)
(――全ての、ハジマリだと言うことに――)
Chapter06.Fin.
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