第4話 身代わりを要求してきた

「人殺しさん」


 その一言に私は思わず、振り向いた。

 夕日も沈み始めた仕事帰り。路地裏にはぽつんとブランコが揺れる。

 ブランと揺れるそこに、あの女子高生が乗っていた。

 ブラン、ブラン、と数回揺れてから、ぴょん、と飛び降りると、彼女は私の方へ歩いて来た。


「元気そうね、人殺しさん。お仕事帰り?」

「また君か。申し訳ないけど君、誰かと間違えているようだね。君が思っているのは私じゃない」

「人違い?」

「あぁ、私は君のことを知らないし、君も私のことを知らない」

「そんなことないわ、田代 健二さん」


 どきり、とした。

 田代 健二。それは紛れもなく私の名前だった。

 彼女は私の名前を知っている。

 私はまるで肝を鷲掴みにされたような感覚に陥った。


「ほんっとに気づいてないんだ、ウケるわ」


 彼女はひとしきり笑い声をあげると目を細め、いたずらな笑みを浮かべた。


「あなたのせいで消えた人がいるのにね。じゃあ分かった、あなたの息子さん、身代わりにいただきまーす」


 それだけ言って、さっと背中を向けると、そのまま颯爽と夕闇の中へ消えて行った。


 あいつ、今なんて言った?

 嫌な予感がした。

 全身から血の気が引き始めた。

 気づくと私は家へ向かって走り始めていた。

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