第2話 人殺し、平和な城に帰る
「ただいま」
おかえりなさ〜い、そう言う元気な声と一緒に、息子の琥太郎が足元に抱きついてきた。つい先日4歳になったばかり、まだまだかわいい盛りだ。
「あなた、おかえり。今日は早く帰って来れたんだ」
被せるような妻の声。このセットが私の一日の疲れをとろりと溶かしていく。
「あぁ、思ったより仕事が順調に片付いてね」
狭いながらも楽しい我が家。
ローン35年で建てた夢のマイホーム。ローコストハウスメーカーで費用を抑えたとはいえ、マイホームはマイホーム、夢の塊だ。
それなりに遠回りすることもあったけど、人の道は外れず、誠心誠意生きてきた。
それがいくら冗談でもあんなこと言われるなんて……
「あなた、どうしたの?」
「いや、なんでもない」
もしもの話だ。
もし、私が人殺しであった、もしくはその罪をなすりつけられでもしたら、一体この平和な家庭はどうなるのだろう。
純白に塗られた、光り輝くこの城は一気に音を立てて崩れ去るだろう。
息子は、このきらきらした汚れを知らない瞳はクラスから人殺しの息子としていじめを受けるだろう。
そんな恐ろしい現実……絶対にいやだ。
いや……ちょっと待てよ? 本当に無いよな——
酒に酔って、記憶を無くしたことはない。
夢中になって、周りが見えなくなるでもない。
——じゃあ、何だって言うんだよ——
考えれば考えるほど私の頭の中はこんがらがっていった。
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