2時間650円

 昼休みの時間、拓海がコンビニのおにぎりを食べていると、クラスメイトの悠斗が彼の席へ遊びに来た。


「なあなあ、何か、いい暇つぶし無いか?」


 悠斗が聞いた。


「暇、って……『ガル☆ファン』があるだろ?」


 『ガル☆ファン』とは、若者に大人気のリズムゲーム、『ガールズライブ☆ファンタズム』の略である。


 悠斗はその全国ランカーに入るほどの強豪だった。


「いやあ、この間溜まってたノルマ一気にクリアしちゃってさぁ。来週の新曲追加まで、やることが殆ど無いのよ」


 悠斗はそう言って、あはは、と笑う。


「だから暇でさ。なんか、面白いもの無いかなって聞きに来たわけ」


 拓海は少し悩んだ。こいつを満足できるようなものはあったかと、思いを巡らせる。


 ふと、自分が今「いいもの」を持っていたことを思い出した。


「じゃあ、これなんかどうだ?」


 拓海はを机の中から取り出すと、悠斗の前に置いた。

 

「昨日買ったんだ。これが1つあれば、2時間は暇な思いをしなくて済む」


「へえ、いいな。可愛いし」


 悠斗の言葉を聞いて、拓海は、彼が興味を持っていると思った。


 だがその直後、悠斗は自分が一番聞きたかったことを口にした。


「ところでこれ、いくら?」


「税込で650円だ」


 拓海の答えを聞いて、悠斗の顔が一瞬で曇る。


「高いなあ。『ガル☆ファン』の新曲、4曲は買えるよ」


「いや、でも面白いぞ。2時間使っても読む価値はあると思う」


「うーん、拓海がそう言うってことは、面白いんだろうけどさ……」


「やっぱいいや。新曲追加までは『ガル☆ファン』のハイスコア更新して、暇をつぶすよ」


「なんだよ。結局、いつも通りじゃないか」


「いやほら、自分が慣れているものが一番楽しいなって思ってさ。悪いな、付き合わせて」


 悠斗は一言詫びて、自分の席に戻っていった。


 拓海は自分が悠斗に薦めたもの――1冊のライトノベルを手に取った。

 巻かれた金色の帯には、「丸山ローファー文庫、期待の新人!」という宣伝文句が添えられていた。

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掌編アラカルト(習作多め) 乙亥 穂積 @Kinoto-I

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