第6話 点と線

 たまに「麻雀に流れなんてない」と言うと「じゃあお前は運の偏りを信じないのか」と、まるでとんちんかんなことを言ってくる人がいる。もっと酷いのになると「お前は運を信じないのか」とか「麻雀は運じゃないっていうのか」とか意味不明なことをのたまう輩までいる。


 運の良し悪しというものは当然あるし、麻雀は運がかなり重要なゲームだし、運は偏るものに決まっている。


 ルーレットを回して赤が出る確率は1/2、黒がでる確率も1/2。これは何回やっても同じである。しかし連続してルーレットを回した時に、出目がどのような偏りを生むかは誰にも推測できない。

 赤が出て、黒が出て、赤が出て、黒が出て……と規則正しく交互に出るほうがよほど数学的に稀なケースだ。試行回数を増やせば出現確率は1/2に収斂していくが、一部を切り取って眺めれば出目は偏っていることがほとんどだ。


「その偏りを流れと言うんです」と主張する人もいる(『ノーマーク爆牌党』の鉄壁とか)。

 しかしこの意見はおかしい。



 例えばルーレットを10回まわして「赤赤赤赤黒黒黒黒黒黒」と出たとしよう。あなたなら次は赤、黒、どっちに賭ける?


 流れ信者なら「黒に勢いがあるから黒」とか「赤に押し戻す力が働くから赤」とか言うだろうけど(こんな風に流れ信者の中でも意見が割れること自体が、流れ論がデタラメである証拠なんだが)、次に赤が出るも黒が出るも確率は1/2だ。「赤赤赤赤黒黒黒黒黒黒」という情報は、単に過去にそういう結果が出たという以上の価値はない。


 結局、流れ信者の言っていることは「4回目の時点では赤に流れがあった」「5回目から10回目は黒に流れがあった」という「過去の事実の説明」でしかない。

「1回目から4回目までは連続で赤が出た」「5回目から10回目までは連続で黒が出た」を文学的表現(?)で言い換えただけとも言える。


 麻雀における流れ派のプロの解説もこれと同じで、単に過去に起きた事実を流れという言葉を使って説明しているだけだ。


 前述の鉄壁が主張する「団子理論」も上記と同じことの言い替えでしかない。

 例えば上記の「赤赤赤赤黒黒黒黒黒黒」という出目について、鉄壁なら「赤い団子と黒い団子ができている」と考えるだろうが、それは単に過去の情報にすぎず、次に赤が出るか黒が出るかについてはまったく何の影響も与えない。結局のところ鉄壁の言っていることは、赤や黒が連続して出現した過去の事実を「団子」という言葉を使って表現しているにすぎない。赤い団子ができてようが、黒い団子ができてようが、次に出る目は赤も黒も1/2の確率なのだから、何の有用性もない情報だ。


「現代麻雀技術論」でネマタ氏が書かれているとおり、麻雀は抽選(配牌や自摸など)と選択(打牌や鳴きなど)のゲームだ。「抽選」には人の意志は介在しない。いかによい「選択」を行うか、神ならぬ人の身ではそれしかできないのである。


 自分に配られたカードを受け入れ、それに応じて最適の選択を行う。それこそが実力であり、ゲームというものの本質だろう。人生における矜持も同じことだ、というと言い過ぎだろうか。


 どうしても「流れ」を信じたいというのなら止めはしないが、それなら流れ信者の方はもう少し「未来」のことを語ってはくれないだろうか。「次の局は東家があがる」とか「オーラスで西家に逆転の手が入る」とか「流れがいいので次局の配牌はよい」とか「◯◯プロは流れが悪いのでこの局は必ず放銃する」とか。


 今、流れ信者が語っている「流れ」は、ほぼ例外なく、すでに完了した事実を説明しているだけである。例えば配牌がゴミだったのを見てときに「流れが悪い」とか、放銃したときに「流れが悪い」とか、そういう場面でしか流れについて言及しない。


 それは「2011年の3月11日に東北で大地震が起こりました」と占い師が言っているようなもんで、何の価値もない。

 こっちが知りたいのは未来に何が起こるのかだ。


 だが、流れ信者は決して未来を語ったりしない。本当に流れというものが存在するのなら、先程、書いたような未来に起こることも予想できるはずであるし、そうでないと流れを読む意味がない。しかし、そんな風に未来のことを語っている流れ信者なんて一度も見たことがない。実際には彼らが語るのは常にすでに完了したことだけである。

 例えば、2連続で悪い配牌を引いたとして、次の配牌も悪かったら「やっぱり流れが悪い」と言うし、次の配牌が良かったら「流れが変わった」というだけである。それではただの後出しじゃんけんである。

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