第5話 それって「流れ」じゃなくて実力では?

 これまで流れについて否定的なことを書いてきたけど、流れというものがあると信じたくなる人の気持ちもわからないでもない。僕だって日常でアンラッキーなことが連続したら、それを「偶然、不運なことが連続して起きた」とは考えずに、運命的なものを疑う時がある(運勢、天中殺、厄年、日ごろの行い、罰が当たった……等)。人間とは弱い生き物である。


 しかし、やはり冷静に考えるとそれはただの偶然であって、そこに関連性はない。

 

 それから、幸運や不運が連続して起きた理由が単なる「必然」の場合もかなりあると思う。

 例えば「一日に2回も自転車にはねられた」とする。こんな場合に、「今日は流れが悪い」とぼやく人も多いだろうが、よくよく聞いてみると、ずっと歩きスマホしてたとかね。単に自分から事故に会う確率を上げているだけだ。


 麻雀でもこういうことはよくある。「流れが悪いから負けた」って言っている人の打ち方を見てると、客観的に見てかなり危険な牌を平気で捨てたりしていて、単に実力が追いついてないだけってことが多い。逆に「流れ流れ」と言っているプロも、ほとんどの打牌は確率的に正しい選択を繰り返しているだけだったりする。結局のところ流れ信者であろうとなかろうと「牌の残り枚数等を考慮し優位な選択を行う」という麻雀の基本原理からは離れられない。


 実際のところ、流れ信者の言うところの「流れ」って自分の論理が追いつかない事象を「流れ」という言葉でごまかしているだけであることが多い。


 先ほどのプロの例で言うと、基本的には確率論に沿って打牌を行うが、コンピューターではないので、完璧な確率計算はできない。計算を間違うこともあるだろうし、あまり頭を使わずフィーリングで打牌することもあろう。そういった曖昧な選択について「流れ」という言葉を使って説明を付けているというのが実際のところであろう。

「流れ」という言葉は抽象的で実態がないゆえに、非合理的な事象を説明するうえで便利な単語なのだ。


 よく流れアンチ派が「流れを信じて欲しいなら、まずは流れの定義をはっきりせよ」と言うが、そりゃ無理ってもんだ。「流れとは何か」を意識せずに使うからこその流れ信者なのだ。曖昧模糊でどんな文脈にでもフィットする言葉だからこそ、彼らは「流れ」を愛用するのである。

 逆に「流れの定義とはこれこれこうである」なんて突き詰めて考えるやつがいるとしたら、そいつはもう「流れ」なんて信じはしないだろう。


 「流れ」という言葉が、特に麻雀界隈において顕著に見られるわけは、麻雀というゲームが囲碁や将棋等に比べ、解析が難しいことが原因なのだと思われる。ゲーム内に「偶然」と「必然(実力)」が錯綜しており、はっきりした区分けが難しい。相手の手牌なんてまず読めないし、打牌ひとつとっても何が正着打か容易にわからない。それに結果における偶然性が占める部分が大きすぎて、常に正着打を選択したとしても敗れることがある。そういった麻雀の持っているブラックボックス性が流れ論が生じる温床となっている。


 実際、囲碁や将棋のプロ棋士は流れがどうこうなんて戦術書に書かない。そりゃそうだ、囲碁や将棋は自分と相手の選択がそのまま勝敗につながるわけで、因果律的な要素が介在する余地がないもの(精神的な揺れという意味での「流れ」ならあるかもしれんけど)。麻雀の場合は実力が結果にコミットできる割合が低いから、流れ論が生まれやすい。


 仮に透視能力者が麻雀やったとしたら、「流れ」なんて絶対信じないと思われる。山も相手の牌も透けて見えるとしたら、そこにあるのは「偶然」と「必然」だけで、それ以外の因果律的パワーなんてものは存在しないってことが実感としてよくわかると思う。

 ただ、僕らはそこまで麻雀を極めていないから、ブラックボックスの説明にどうしても「流れ」という信仰が入り込んでしまうのだ。


 最近では囲碁も将棋もプロよりAIのほうが強いようだが、もし将来、麻雀のAIが発達して、全ての状況でもっともよい一打を導けるようになって、プロを凌駕する勝率を維持する時代になったら、流れ信者ってかなり減るんじゃないかなと思う。

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