第2話 流れ論に決定的に欠けているもの
「怪獣図鑑ってあるだろう、子供向けの」
「クローバーの8。怪獣の足跡とか解剖図とかが載ってるあれですか?」
ハートの4、
「怪獣の腹ん中に火炎袋とか放射能袋とかがあって、『おこるとろくせんまんどのかえんをはくぞ』なんて解説がついてるやつ。あれだって結構痛いとこ突いてるよな」
「スペードの5。痛いとこって?」
「だからさ、怪獣には火炎袋があるから六千万度の火炎を吐けるんだ。実に正しい。解剖学的にはそれがスジさ。人間だってそのへんは同じで、目があるからものが見えるし耳があるから音が聞こえるし、筋肉があるから手足を動かせる。泥臭い話だと思うかもしれんが、もし本当に第六第二の出力系が存在するのなら、その機能を司る器官が人間の体の中にあって然るべきなんだよ」
上記は秋山瑞人のライトノベル『イリヤの空 UFOの夏』からの引用である。
オカルト研の主将が「火を吹く怪獣には火を造る生体機構があるはずだ」との持論を述べている。これは極めてまっとうな考え方だ。なんらかの物理現象が起こっている以上、そこにはそれを生みだすメカニズムが存在していないとおかしい。
空が青いのも、星が赤方偏移するのも、植物が光合成を行えることにも、その裏には物理的な作用機序がある。理屈がわかっていない現象もあるが、それは現代の科学が追いついていないだけで、いずれの現象にも科学的な理由が内包されているはずである。
仮に体内構造が普通のトカゲとまったく変わらないトカゲを見せられて、「これは火を噴くトカゲだ」と言われても納得はできない。そのトカゲはどうやって火を作っているのかという疑問が当然、生じる。
前述の引用文の怪獣の場合だと、火炎袋という体内器官があり、そこで火を生成しているという設定らしい。火炎袋というのはいかにもとってつけで、子供だまし感があるが、「この怪獣は体内に火炎袋という器官があり、そこで火を作っているから火を吐けるんだよ」というのは説明の方向性としては間違っていない。
ところが世の中にはこういった子供だましの理屈すら考えつかずに、自説を押し通そうとする人たちがいる。言うまでもなく流れ信者のことである。
流れ信者の意見には物理的なメカニズムへの言及がない。
彼らは「流れは存在する」との結論を繰り返すのみで、どんな作用があってそのような現象が起きるのかについては一切、答えようとしない。
例えば、「降りて振り込むと流れが悪くなる」という、よくある流れ論を例にとって考えてみよう。この現象をこんな風に説明してはどうか。
「降りて振り込んだ人間からは特殊な電磁波が放出される。一方、麻雀牌には人間から放出される電磁波を感知する機能があり、前述の特殊な電磁波を感じ取ると、表面構造を変化させ、電磁波の発生源である人間にとっては不利益を生ずると判断される牌に変化する。」
これは僕が即興で作った文章であるから、書いてあることはまるでデタラメだが、それでもこういった具合に、「流れ」の背景にある物理的メカニズムを説明してくれるのであれば、今よりははるかにマシだ。
しかし、流れ信者は様々なテーゼを呈示するわりに、そこにどのような物理的作用・科学的反応があり、その結果が導かれるのかについては一切、説明を行わない。まったくもって典型的なエセ科学である。
流れが実在すると主張したい方々は、「どのようなメカニズムでそういう現象が起こるのか」を説明してほしい。少なくとも仮説ぐらいは言えるはずである。
ついでにいえば、流れの存在を否定している人たちも「流れ論は確率的に正しいかどうか」みたいな検証をしていることが多く、ピント外れではないかと思う。流れ論が決定的に間違っているのは「どのような物理的メカニズムでその現象が起こるのか」を説明できない点である。確率うんぬんは問題の本質ではない。
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