5 マツール島 2日目 ③

 シンゴの元にたどり着くと、シンゴは腰を抜かして体半分を海につかりながら倒れていた。彼の口には、まだ嘔吐の名残が残っていたが、そんなことに構っていられないほどに怯えて、ある方向を指差している。

 彼の指差している方は、彼が倒れているちょっと先の岩場。波がその岩場に、何かを打ち上げていた。その周りの海水は、赤茶けてにごっているようだ。いや、赤くなっている。


 山崎は、岩と岩の間をつたって、その岩場の方まで行って、その打ち上げられたものが何なのかを確認しに行った。

 海の水を赤く染め上げているのは、打ちつけられた岩に引っかかっている何かだ。遠めにみると、ぷにょぷにょとした、赤く、長いものだった。貝の一種か?いや、貝殻がない・・。その長く赤い何かの周りには、カニやフナムシが沢山わいていた。その何かを食らいあっている。

 山崎は、岩に打ち上げられている硬くて長そうな海草の茎を持つと、その長いものをひっかけ、自分の目の前に持ってきた。

 ソーセージのような赤いもの・・。ソーセージ・・。腸詰め・・!!

 そう、これは腸だ!生き物の腸!!

 腸の先端がこの岩場に打ち上げられて引っかかり、数メートル離れたシンゴが倒れているすぐ近くまで流されている。

 今度は岩場で山崎が驚きのあまりひっくり返った。何かの内臓を目の前に見て、とたんに吐き気がわいてきたが、戻すのは必死にこらえる。

そうして、もう一度海面を確認した。すると、何かまだ岩場にひっついている。腸とは違う何か。それを確認するために、もう一度、赤く染め上がった海面を確かめる。

 それは、赤茶けたような、黒いような色をしていて、細長い海草のようなものがびっしり生えているものの破片のようだ。先ほどと同じ要領で、海草の茎をその細長い何かをくくりつけ引っ張りあげた。その黒いものが生えている何かの破片。これにもムシがたかっている・・。岩ではない。この黒く細長いものも、海草なんかじゃない・・。毛だ・・。黒く、長い・・。人毛!?ということは、毛がついて、ムシがたかっている何かは、頭皮!?人間の肉片!?


 さすがに、今度は嘔吐をこらえきれず、山崎は胃の内容物をあらんかぎり吐き出した。

 ただならぬ山崎の様子が心配になった高田と鈴木が、彼の元へ向かおうとした。


「来るな!!来ちゃいかん!!」


 山崎は彼らを制止した。

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