5 マツール島 2日目 ①
テントの中に、朝の光が射してきた。
涼香は目を覚ました。あのあと、どれくらい寝たのだろうか。例の一件でドッと疲れたせいか、床に入ったあと、一瞬にして意識を失ったようだ。腕時計を確認する。時計の針はまだ朝の5時前だったが、夜は明けていた。
正直言うと、もっと寝ていたい。本格的に活動を開始するまであと2時間は寝ていてもいい。
涼香は、隣に寝ていたナホの様子を見てみた。昨日に比べると、すっかり顔色がよくなっているようだ。枝葉でかすれてついたであろう、顔の傷の痛々しさは相変わらずだが、回復ははやそうだ。起こさないで寝かしておいてやろう。ひょっとすると、今日一日はこのまま寝たきりにさせておいたほうがよいのかもしれない。
涼香は腰をあげると、テント内の様子をみた。テント内には、自分とナホ、鈴木しかいない。レイとサチは、もう起きているようだ。レイはひょっとすると、フランソワと一緒にいるのか?涼香は昨日のレイとフランソワの様子を思い出し、少し嫉妬した。ナホとのこともあったし、事件のショックもあったので、フランソワに少し冷たく接したかもしれない。
もしかしたら、朝っぱらからレイとフランソワはよろしくやってるのじゃないか?少し不安になった涼香はトイレついでに立ち上がり、テントの外に出た。
だが、外には誰もいなかった。
男性陣もまだ誰も起きていないようだ。涼香は、テントの死角となる、岩場向こうの狭い浜へ向かった。ここならば、誰か起きてきてテントから出てきても、用を足している涼香を
パンツを下ろし、しゃがむと、勢いよく小便を放出した。よく考えたら、あの事件のあと、今の今まで用を足していなかった。それだけショックも大きかったのだろう。涼香は用を足し終えると、海の方まで向かい、股間を海水で軽く洗うと、パンツをずりあげた。そうして、テントに戻ろうと歩き出し、浜辺の砂を見たとき、ちょっとした違和感を覚えた。
この部分の浜が、テニスコートのように、レーキか何かできれいに
少し不思議に思いながらも、涼香はテントの方へ向かった。まだ、寝たい。
すると、小屋から誰か出てきた。フランソワだった。
こんなに早く起きて、小屋で何をやっているのか?もしかすると、彼の後に、レイが出てくるのか?ちょっと不安を感じながら、しばらく様子を見ていたが、レイが出てくることはなかった。よく考えれば、フランソワはツアーコンダクターだ。今日のツアーに備えて、人より早く起きて準備をすることはなんらおかしいことではない。
「フランソワ!」
涼香は声をかけると、彼女のもとに駆け寄っていった。
フランソワはそれに気づくと、気まずそうな表情になっていた。
「おはよう!」
「オッ、オハヨウゴザイマス・・・」
フランソワの様子はなにか落ち着きがなかった。よほど、昨日の自分に対する涼香の態度が気に食わなかったのか。涼香は深くわびた。
「昨日はなんだかごめんなさい。いろいろあったものだから、つい・・。あなたになんだか失礼な態度をとっていたみたい・・。」
フランソワは驚き、ついで安心したような表情を浮かべると、やさしく微笑んだ。
「ソウデスヨネ。昨日ハ大変デシタ。デモ、安心シマシタ。嫌ワレタノカトバカリ思ッテマシタカラ。」
フランソワは笑顔だが、昨日までの頼り甲斐のある、頼もしい雰囲気はどこか薄れ、少し疲れているのか、怯えているのか、複雑な表情をしているように見える。
「ナホサンハ、大丈夫デスカ?」
「まだ寝ているからわからないけれど、大丈夫そう。あっ・・・。ナホのことも許して。彼女、男性に免疫がないもんだから、」
涼香は、フランソワに対するナホの無礼な態度も謝った。ナホの自分に対する思いは伏せて。
「免疫?」
「あぁ、男性に優しくされることに慣れてないのよ。あなたのこと、少し怖いと思っているみたい。」
「ソウデシタカ。コノ旅デ少シ慣レテクレルト嬉シイデス。」
そう言うと、フランソワはまた涼香に笑みを見せたが、何かせわしなさを漂わせている。
「あっ、お仕事の邪魔みたいね・・。私、戻るわ。もう少し寝る・・。」
そう言って立ち去ろうとしたが、気になっていることをフランソワに聞いてみた。
「昨日、みんなが寝た後、あなたはどうしてたの?」
「私・・?皆サント同ジヨウニ、寝マシタヨ。スグニ。」
ちょっと戸惑いを見せたが、フランソワはそう返した。
「なら、よかった。」
微笑みながら涼香は言った。
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