3 マツール島 1日目 ③

 島が見えてから30分あまりが経過したろうか。

 島は眼前に近づいていた。島は波によって切り崩されていて、海に面している部分はするどい岩場と岸壁に囲まれていて、船を止められるような場所があるようには見えなかった。


 ブロロロロロロォ。


 エンジン音が一度止まった。波に揺られて、船がグィィィ。グィィィっと音を立てている。エンジンの音が余程うるさかったのか、音を止めるととても静かに感じられた。


 船の上からも分かるが、島の周りは岩場に囲まれていた。海面からごつごつとした岩が飛び出している。


 山崎は船から海面を覗いてみた。海の底を波が巻き上げるせいか、ハマニリゾートの海ほどの透明度は感じられなかった。それどころか、海底が黒いように見えた。よく見ると、海底はほぼ黒い岩だった。そして、岩には黒っぽい海草がびっしりこびりついているようだ。青い海ではなく、黒い海、と呼ぶにふさわしいだろうか・・。


 ブロロロロロロロロ!!


 また勢いよくエンジン音が鳴り出し排煙筒から黒い煙がぶわっと出たかと思うと、船がぐんぐんと進みだした。

 船長は波の様子を読んでうまく操舵しながら岩をよけて先に進む。見事に岩場をよけながら船は島に近づいてくる。その操舵はちょっとしたパフォーマンスのようでもあった。

 パズズは奇声をあげながら、船長をたたえ、スマホでその様子を撮っている。

 船は、グワングワンと激しく揺れているが、乗客たちは岩礁の中を船が進んでいくのを固唾を呑んで見守っていた。まるで遊園地のアトラクションのような、ラフティングのようなスリルを楽しんでいた。


 岩と海草を船がぬっていくと、やがて舳先へさきの正面に白い浜が見えてきた。浜はびっしりとした樹木に囲まれている中、ぽつりと広がっていた。島の面積からすれば、すずめの涙程度しかないであろう、申し訳ないくらいに狭い浜が見えてきた。


 浜のすぐ脇には、簡易的に作られた桟橋と小屋が建てられていた。


「少なくとも、我々より先に島に上がった人間がいるってことだね・・。」


 桟橋と小屋はいかにも簡単に作られたものではあったが、見た目は新しく、つい最近作られたものであることは明らかだった。山崎は、少し残念そうにつぶやいた。


「桟橋とかがないと上陸できませんから、仕方ありませんよ」


 鈴木が山崎をなだめるように言った。


「マツールニ到着シマス。桟橋ニ接岸シマス。衝撃ガアルノデ、船ガ完全ニ止マッテカラ、荷物ヲ取リニイッテクダサイ。」


 グググググ!ガタン!!


 音を立てて、船が接岸した。

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