3 マツール島 1日目 ②

 船の揺れは想像以上だった。

 天候はきわめて良好で、風もほとんどなかったが、海は大荒れで大小の波が、次から次へと船体にぶつかったり、持ち上げたり。

 そのたびに船は大揺れになり、水しぶきが船体を洗った。それとともに乗客たちも潮をかぶった。船上はパニックになり、悲鳴が上がった。


 シンゴとレイ、ナホは胃から逆流してくるものを抑えることができず、何度も豪快に海へ吐き出した。ほかの者も、何人かは嘔吐しないよう必死に我慢していた。影響を受けて自分も吐き出さないよう、シンゴたちの方から目をそらしていた。


 フランソワはレイとナホを交互に介抱していたが、二人とも、そのイケメンコンダクターの優しさに甘える余裕はなく、いよいよ吐き出す胃の内容物がなくなると、少し緑色ににごった胃液まで吐き出し始めた。


 波は容赦なく船を襲ってくるので、もはや嘔吐をうまく海へ吐き出せなくなり、彼女達は吐しゃ物と海水まみれになっていた。船の中にも吐しゃ物が流れ込んでいる。そこでやむなくフランソワは、なんとか桶で海水をくみ出すとレイやナホにぶちまけた。何度か海水をかける。二人はいきなり海水をぶっかけられたことに驚いた。


「ちょっと!何すんのよ!!」


 ナホが怒鳴った。レイは呆然としていた。

 しかし、そのショックのせいか、二人とも不思議と吐き気が治まった。


「ゲロまみれよりいい。どうせ、潮水いっぱいかかってビショビショなんだから。」


 涼香が、ナホを諭すようにいった。


「ホラ、島ガミエテキマシタ!」


 フランソワが指差した方角を全員が見た。

 どれくらいの距離、離れているかは分からないが、確かに島が見え出した。島はあまり大きくなさそうだったが、緑に囲まれた山のようになっている。

 目的地がはっきりしてくると、乗客たちも少し安心したのか、船酔いも忘れて、島の方をずっと見つめた。


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