2-4
ハマニリゾートでの休暇はあっという間に2日目の夜を迎えた。
1日目の夕食は各自それぞれがホテルのレストランや、島の食堂、屋台などで思い思いに摂ったが、2日目はホテルのディナーだった。しかも9人、同じ丸テーブルに座っていた。
ドレスコードがあるわけではなかったようだが、ほかのホテル客はみな、きちんとした服装をしていた。
このツアー客たちも、ほとんどがきちんとした服装で身を固めていたが、シンゴ、レイは、相変わらずの品のない服装だった。レイは一応ドレスなのだが、ケバケバの、明らかにキャバクラのホステスな格好だ。しかし、二人とも恥ずかしがる気配もない。
この二人は仲がいいのか悪いのか分からないが、いつもごちゃごちゃと小競り合いをしていた。美味しい料理を前にしても、その状況はあまり変わらなかった。自分達にそぐわない雰囲気に居心地が悪いのか、シンゴがウダウダと文句を言っているらしい。
パズズはダークスーツを着ていたが、派手な髪の色とスーツが似合わない。そして、例によってスマホを携えながら、大声で奇声を発し、次から次へと運ばれてくる料理の実況中継をしていた。驚くことに、こんな偏狭の島にもWi-fiが通じていた。
いつのまにかパズズとサチは意気投合したのか、サチはパズズの実況の手伝いをしていた。
いつもはパズズのみの実況の動画のはずが、いきなり、胸の大きな美女が画面に現れてパズズの指示に従って実況している。パズズも女の扱いに慣れてきたのか、サチに結構艶っぽく実況するよう指示している。サチもノリノリで放送しているため、視聴者達には大好評らしく、映像と同時に視聴者から、激しい興奮状態のメッセージがいつくも届いた。
この4人以外は、テーブルに着き、うまい料理や酒を楽しんでいた。
すると、そのテーブルにフランソワと2人の黒服のボディガードらしき、体格のよい黒人男性を引き連れて、アフロヘアで白いスーツを身につけた黒人の男性が向かってきた。
「ミナサン、タノシンデマスカ?」
フランソワが彼らに声をかけた。
一同は、食事をやめ立ち上がった。きっとこの白スーツの男は偉い人物に違いない。
「御紹介シマス。ハマニリゾート支配人ノ、アランデス。」
彼らは、おおっ、と声を上げ、アランに握手を求めた。アランは白い歯をぎらりと見せて満面の笑みを浮かべて、一人ひとりに力強く握手をした。白いスーツを着ているせいか、彼の黒い肌の色は漆黒だった。フランソワと比べても、その肌の色は尋常じゃないほどに黒い。彼の口からのぞく歯は、彼の黒い肌のせいもあって輝くほどに白く感じた。
アランは一同に、席に着くよう勧めると、自分も席に着いた。
アランは、フランソワほど流暢ではないものの、日本語で話し出した。
「イカガデスカ?ハマニリゾートハ?」
「最高です。ワンダフル!」
山崎が答えると、ほかの人間も口々に賛辞をしめした。
「イヨイヨ皆サン、明日ハ・・・」
なぜか、少し口ごもるアラン。
「イヨイヨ、明日カラ、マツールアイランドデス。覚悟ハ、デキテマスカ?」
「覚悟・・??」
鈴木が困惑の表情を浮かべる。それをみて察したフランソワが言葉を継ぎ足す。
「御準備ハ、デキテマスカ?」
そう言って、今度はアランに耳打ちするフランソワ。それを聞いて、ハッとして笑い出すアラン。
「ハハハ、ソウソウ、御準備ネ。覚悟、ノン。覚悟イラナイ。準備ネ。」
アランに釣られ、一同も笑った。
「でも、やっぱり覚悟はいりますよね。人類未踏の無人島ですから。」
山崎がそう言うと、それを聞いてアランはまた笑い出した。
「ハハハ。余計ナコト、イッテシマッタ。心配イラナイデス。呪ワレタアイランドトイワレテマスガ、イマドキ、神ダ、呪イダナンテ、バカゲテマスデショウ?自然ノママノ、危険ハアリマスガ、ダイジョウブ。ホントニ危険ナラ、皆サンヲ、マツールヘ、御案内、シナイデスネ。」
「日本語、お上手ですね。」
鈴木は感心した。
「ボビー・オロゴンのゲロッパだぜ!」
なかなか噛み切れない肉をくちゃくちゃ噛みながらシンゴが言った。
レイも酔っ払っているのかケラケラ笑っている。
「てめえら!黙ってろよ!」
涼香が注意した。ケラケラ笑いながらも二人は静かになった。
何がなんだか分からないアランは二人を見ながら笑っている。
「しかし、本当にすばらしいリゾートですが、この島にリゾートができてどれくらいになるんですか?」
鈴木は取材のつもりでアランに尋ねた。
「ジュウゴ、ロクネンニナリマスカネ。」
「その頃から、こんな素敵なリゾートを開発していたのですか?」
なおも質問を続ける鈴木。
「ソウデスネ。後ハ、チャイナノ支援デ、数年前ニ、リニューアルシマシタ。」
シンゴがいきなり大声を出した。
「チャイナかよ!メイド・イン・チャイナ!あぶねぇ、あぶねぇ!」
涼香がにらみつけると、レイがシンゴの頭をはたいて黙らせる。
ついで、鈴木が、アランにまた尋ねた。
「噂では、マツール近海で難破して沈んだ海賊船に積まれていた宝がこの島に流れ着いて、それを元手に、リゾートをつくったなんて言われてるようですが。本当ですか?」
アランとフランソワは、お互いの顔を見合わせると、大きく吹き出して、大笑いを始めた。
「失礼、アハハハ!笑ワズニハ、オレナイネ!誰ガソンナ嘘ヲ!アハハハハ!」
あまりに二人が大笑いするので、鈴木は自分の質問が余程珍妙なものだったのかと思い、恥ずかしくなった。
「海賊ッテ、ディズニーノ映画ノヤツデスカ?パイレーツ?イツノ時代ノハナシデショウネェ・・。アハハハハ。イヤイヤ、笑ッテハイケマセンネ。確カニアノ辺ハ、激シイ岩礁、荒イ海。マツールハ、確カニ、船ノ墓場ネ。デモ、海ノ流レハ、ハマニトハ反対ニナガレルカラ、オ宝ガ海ニ落チテモ、ハマニニハ、流レツカナイノデス。」
お分かりですか?とでも言わんばかりに、大きな白い目を見開いて、アランは鈴木を見た。鈴木は恥ずかしさのあまり彼から目線をはずした。アランはそれを見てまた大笑いをはじめた。
「私ハジュウゴ年前、カナダノ企業ニ入社シテネ。日本トアメリカノ支社デモ仕事シテネ、ハマニニ戻ッテキマシタ。カナダデタンマリ、稼イデネ。ソレヲ元手ニ、ハマニデ事業ヲハジメタノデス。カナダノ貨幣価値ハ、ハマニノソレノ何倍ニモナルカラネ。」
なるほど、と、皆納得した。
「俺、買っちゃおうかなぁ!島!!」
いきなりパズズが言った。
また大笑いを始めたアラン。
「アハハハ!是非オ願イシマスヨ。オボッチャン。」
「金ならあるからね。あなたが稼いだってお金くらいで、この島のリゾートができるなら、今の俺の収入であの島くらい買えるでしょ。」
「コレハ、コレハ!アハハハハハ!」
とんでもない若造が、バカなことを言っていると言わんばかりに大笑いのアラン。
「彼は有名なユーチューバーなんですよ。年収は億円単位」
サチが言う。それを聞いてアランは、目ん玉をひん剥いて驚きの表情を浮かべた。
「ユーチューバー?ソレハスゴイデスネ。デモ、マツールハ、売レマセン。神ノアイランドハ、手放セバ、祟ラレル。オ金ハ欲シイデスケドネ。アハハハハ!」
「でも、貴方は神とか呪いなんて今どき、信じていないんでしょ?」
涼香はアランに尋ねる。
「私ハ信ジテイマセンケド、ハマニノ人間ハ、信心深イ。金ノタメニ、マツールヲ売ッタト知ッタラ、皆ダマッチャイナイ。皆サンヲ、マツールニ上ゲルコトモマダ教エテナイノデスカラ。ソレニ、皆サンノツアーガ成功スレバ、多クノ観光客ガミコメマス。ソウスレバ、儲ケハ、ユーチューバーノ坊ッチャン以上ニナリマスカラネェ。アッハッハッハ」
小ばかにされたと感じたパズズは不機嫌になった。
「絶対、島買ってやるから覚悟せや!」
いきがったパズズに向かい、更に白い歯を見せて、アランが笑った。
「覚悟、ノン、御準備クダサイ。イッヒヒ!アハハハハ」
アランは大物経営者とは思えない、
「日本語で皮肉を言うとは、すばらしいセンスですね。」
山崎がそう言うと、その場のほとんどの者が笑った。
「デハ、皆サン!最後ノハマニノ夜ヲ、存分ニ御楽シミクダサイ。明日ノ朝ハハヤイデス。クレグレモネボウシナイヨウニネ。」
アランは席を立ち上がった。
「アトハ、フランソワノ指示ニシタガッテクダサイネ。ウマイモノヲ沢山食ベテ、今日ハ、早ク寝マショウネ。」
そして、シンゴとレイを指差すと、アランは突然腰を振るスタイルをした。
「体力ハ、残シテオキマショウネ。アハハハハ!イヒヒヒヒ!」
アランは大笑いし、ボディガードとその場を去った。
高田はアランがとても下品な人間に感じられた。
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