夏だったもの
韮崎旭
夏だったもの
夏だったものの遺骸が転がっている。無残で滑稽だった。私はそれらと空を破棄がないさまで嘲笑するとその場に座り込んで嘔吐してしまった。どうしてだろう、これは観賞の類ではないのに、戸をノックする、執拗にノックする、実際的な必要など皆無なのに、醤油さしでノックする、君は夏を殺しうるのか?
遺骸が転がっていた朝にはこの愚弄を掲げ、出足を折られるような、出鼻をくじかれるような、行く先不明の心象の不全がより一層へと私を壊してゆく。サイダーの缶を開封し、閉じ込められた虚無は死産された。鉄の涼やかが、目を抉る。君に出口はないと叫んでいるのどがかれるまで、声がつぶれるまで、脈拍が破たんするまで、壊れた人格は叫び続ける。そこに悲壮はなし。
冬だったものの遺骸は葬られては火葬とした。ナイフで削るのが生命、海図に描くのが酩酊、恐慌の先には泥沼、私のかわいい死神、卑劣漢、ペテン師、私生児! でくの坊と呼んでくれたのならまだ楽だった。斑紋をなす情動の不備は語るだろうか?自死以外の行く末を見出すだろうか? 電車はもうすぐ湯島に到着する。湯島、湯島天神、天神前、自前の天津市当局の気象災害警報。
吐いてしまったものは私が抱え続けた鬱積でそれは少しも私を改善しなかった。医薬品を重ねてどう見てもB級映画といった邦題の映画を借りてくる。文化的に荒野で僻地で辺境であるという理由で、私からその土地は恨まれ、どうでもいい私怨から、殺人的な不遇を押し付けられている。列車の窓は汚れていて、地下鉄の通路には硫化物の悪臭が充満していた。それでも死以外のことを無理に考えようと試みた。
懐かしいので地下室で‘#!部隊による実験から生まれたゾンビが旧日本軍の兵員をするみたいな話は面白くない。絶対。せめてSSの制服を着てください。というかSAの、フライコール上がりのごろつきのSAのどうしようもなく雑な手際からゾンビが意図せず生まれて管理できなくなってください、SAに緻密さが感じられない……。暴徒の集まり。
この記事は独断と偏見に基づき書かれています。
夏だった嘔吐はやがて脳裏と手のひらを埋め尽くした生温かい、私だった何者かはそれ自身が私であるかのような自己主張を始めるだろう。死は温かいか? それは好意的か?
待っているか?
夏だったもの 韮崎旭 @nakaimaizumi
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