第41話  ファエトンという名の女の子

「透くん、君の願いは?」

「僕の願いは・・・君との記憶を消してほしい」

「えっ」

ファエトンは、想定外だったのか・・・パニックになっていた・・・


「それ、本当なの?」

「ああ」

ファエトンは、取り乱していた。

確かに自分の記憶を消すなんて、いい気はしない。


「どうしてなの?透くん」

「僕は君が好きだ。でも・・・」

「でも?」

「このまま君の事を考えてしまえば、僕の成長が止まる気がする・・・」


バシン


頬を叩かれた。


「私は嫌だよ。君が私の事を忘れてしまうなんて、耐えられない」

「でも、他の方の記憶からは消すんだろ?」

「うん」

「僕だけというわけには、行かない」

「私は認めない」

ファエトンは、僕を抱きしめた。


温かい・・・


「私は、透くんの事が好き。君にだけは私の事を、忘れて欲しくない。

なので、その願いだけはきけない・・・」

「ファエトン?」

ファエトンは、泣いていた。


「お願い。他の願いにして・・・」

「わかった・・・ごめん・・・」

「私こそ・・・叩いてごめん・・・痛かった?」

「少し・・・」

でも、なぜか嬉しかった・・・


「じゃあ、他の願いにするよ」

「うん」


【僕の子供を生んでくれ】


「わかった・・・掛け合ってみるね」

ファエトンは、交信しているようだった・・・


本心ではあった。

でも、出まかせだった。


少しでも長い時間、ファエトンといたかったのだろう・・・


「透くん、返事が来たわよ」

「なんだって・・・」

「透くんの願いは・・・」


それから数年後。


僕は旅行会社の、タビデルに勤めている。

苦労はしたが、努力は報われた。


今日からしばらく、地方鉄道で働く、女性運転士の取材に行く。

なかなか、人脈は広くなっている。


「あなた、行ってらっしゃい」

「ああ、愛美行ってくるよ」

愛美・・・

かつて、ファエトンと名乗っていた女の子。


「ほら、芽衣(めい)も、お父さんに行ってらっしゃいは?」

「パパ、行ってらっしゃい。早く帰ってきてね」

「うん、芽衣、行ってくるよ」

芽衣・・・僕の娘だ。

今年で、5歳になる。


生意気盛りだが、とてもかわいい。


そして、新たな命が愛美のお腹に宿っている。

「今度も、女の子だって?」

「うん。あなた、名前考えておいてね」

「うん」

愛美のお腹を優しくなでた。


「パパ、がんばってくるからな」

少し動いた気がした。


「あなた、気をつけてね」

「うん」


妻である愛美と抱擁を交わして、僕は元気よく出かけた。


≪行ってきまーす!!≫

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流れ星と共に 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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