座敷少女終
先生は魔法陣が模様として織り込まれた布を床に敷き、そこから次々と家具を出現させた。
新しめな高機能電子レンジ、本棚などの大物のほか、ベッドの傍に欲しいと思っていたランプや夏用ラグマット。寝具、バスマットもある。
魔法で動かすのかと思ったら、普通に軽々と家具を持ち上げて移動させていた。
手伝おうとするとやんわり押しとどめられて、あたしは傍で置く位置を指示させてもらっただけ。……なんだか申し訳ない。
粗方家具を設置し終えた先生が、秋冬向けの用品を指さす。
「冬用の物はどこにしまいますか?」
「あ……物置で。奥の部屋。突き当りの右側」
「置いてきますね」
ひとまとめになった寝具を持ち上げて物置へ。
凄く手軽にやっているけど、あたしが持ち上げようとしても持ちあがらなかったので、彼の腕力ありきの技だ。
「……」
彼の種族がますます謎。
すぐにリビングに戻ってきて椅子に座った。
「なんか、ごめんね。全部やってもらっちゃった……」
「佳奈子は身長も低いですから、大きいものを運ぶのは大変でしょう。お気になさらず」
わざわざ身長が低いと言ってくれたが、先生の身長だってあまり高くはない。
単なる身体能力の差じゃないかしら。
「家具で他に欲しいものがあれば譲りますので遠慮なく」
「もらってばっかり」
「俺の家には家具や日用品を置く物置が3部屋あります。遠慮なく」
「あ……決まり文句じゃないんだ……」
礼儀としてのお決まりではなく、本気で遠慮せず持って行ってほしいらしい。
「息子の1人に、思いつきで物を買う悪癖の持ち主がいまして……」
いいところのおうちで10人家族となれば、ものが溜まってしまうこともあるのかもしれない。
「これは別にいいです。幽霊でなくなっていけば、また必要なものが出ることも考えられます」
「うん」
ラグマットが欲しいと思ったのは足が安定したからだし、ランプが欲しいと思ったのも昼夜の区別が体に刻まれてきたから。
暮らしていくうちに、あたしは”生きる”のだろう。座敷童として。
「あと、契約書ですね」
「?」
「契約書は後日同じ書類を持ってきます」
「なんで?」
「そういうものだからです。なので、そのときまた名前を書いて下さい」
「いま書けるわよ?」
「勉強を支援するための契約書を書くのに疲労困憊になるのはどうかと思います」
まさに本末転倒だ。
「受験生なのですし、体は大切に」
「……わかった」
やっぱり優しい。
あたしは深呼吸をしてから、先生に向き直る。
「今日は、ありがとう。……ほんとに、あれこれ助けてもらいました」
「どういたしまして」
「クレープ美味しかったし、話も楽しかった。ありがとう」
「それは良かった」
2人で会釈しあう。
「あなたの祖母にもきちんとご挨拶するつもりですので。退院して体調が落ち着かれたら紹介願います」
「あ、うん」
常識が吹っ飛んだサイコ魔法使いだけど、礼節はきっちりとしている。
「雇用契約に関しては手紙にしてお伝えします。明日あなたに渡しますので、これは出来ればすぐに」
「わかった」
「これからよろしくお願いします、佳奈子」
「うん。よろしくね、シェル先生」
「ところで、翰川先生のパンフはどういう意味があったの?」
「持ってきた契約書の区分は雇用契約でしたが、学費の形式についてはそれに書いてあることと同じ内容です。パンフレットも読んでくださいね」
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