第15話 万能の英雄と紫炎の魔女②

                  ※※※                  

 見下ろす天防の街はまばらな光を放っている。あちこちから上がる煙。クラクションの音。それらを見た夜白は固く拳を握る。それは手を繋いでいた忠虎にも伝わったようで、同じ強さで握り返される。

 見慣れた天防タワーの屋上に降り立った夜白と忠虎。二人は屋上の中心に視線をやる。

 七篠は常に浮かべていた薄寒い笑みを消している。平坦な声で彼女は言った。

「キミが望むものはあそこだ」

 七篠が空を指差す。十メートルほど上空に球体となった魔法阻害のウォンドが、無防備に浮かんでいる。あれを壊せばこの街に魔法が戻ってくる。

 夜白は視線を落とし、七篠を見た。グッと身を屈め、身体に力を溜める。

「言われなくても――」

 忠虎の手を離し、言葉と共に夜白が数歩前に進みだした――

 瞬間、七篠の姿が掻き消えた。最大限に強化された視力でさえも、全く姿を追えなかった。ほとんど勘だけで右側面に向け、防御態勢を取るが、夜白の身体を強い衝撃が襲う。それが蹴りだと気づく頃には、夜白はフェンスに吹き飛ばされていた。

 ――速すぎる!!

 全身を走る鈍い痛みがかき消えるほどの驚愕だった。まるで今までの戦いが子どもの遊びに思えるほどのスピード。これが終焉の魔女の本当の実力。

「夜白ッ!」こちらを一瞥した忠虎が、七篠に向かって突進した。上段に構えた国崩しが音すらも置き去りにして、七篠の頭上に振り下ろされる。だが七篠もすぐさま報土により防御態勢を取る。

 白銀と漆黒の刀身が激しくぶつかり、薄暗闇に眩い閃光を瞬かせる。国崩しと報土が交差した場所からは、大気を震わせるほどの衝撃が発生し、夜白の髪を揺らす。

 忠虎と七篠は反動で後ろへ下がる。五メートルほどの距離を空けた二人は全く同時に詠唱を終えていた。

 七篠の姿がブレたかと思うと二人に分身した。一人が強く地を蹴り、忠虎に突っ込む。もう一人が黒い靄を残し、空間転移で忠虎の背後へ現れた。二人の七篠が持つ報土は、炎に包まれ、赤く光り輝いていた。

 忠虎の前後から神速の刃が迫る。一つでさえも必殺を誇る豪剣が前後から二つ。しかし、忠虎は冷静に詠唱を唱える。忠虎の身体を黒い靄が包む。

 間一髪。今まで忠虎がいた空間を真紅の軌跡が十字に切る。

 空間転移で少し離れた場所に跳んだ忠虎は、砕けるほどに地を踏み抜く。急加速した忠虎が一人の七篠を斬ると、身体が白い靄となり四散する。斬ったのは分身だ。

「もう一つ!!」忠虎は構わず叫ぶ。

「させないよ!」

 本物の七篠が空間転移を発動する。直後、忠虎の背後へ七篠が現れた。鋭い刺突が二つ放たれる。振り返りもせずに忠虎は、驚異的な反射神経で刺突を避ける。続けて三発目。忠虎は国崩しを構える。だが忠虎の身体に向けられた、報土の切先が黒い靄に包まれた。

 その刹那、三発目はなぜか忠虎の足元から伸びる。完全なる不可視からの一突きを、しかし忠虎は読んでいたのか大きく飛び退る。

 今のは……七篠がやったのは、切先のみを空間転移させたのか。突飛な発想力とそれを成す技量。そしてそれを防いだ忠虎もまた素晴らしい反応速度だ。

 夜白は息を呑んで二人の攻防を見ていた。今すぐ動くべきだった。早く忠虎に加勢するか、空に浮かぶ球体を破壊すべきだった。それが分かっているのに、夜白は動けなかった。それは疲れでも、身体の痛みのせいでもない。

 夜白の身体を縛り付けるのは形のない感情だった。

 嫉妬? 絶望? 羨望? この手の震えは何? 恐怖? それとも興奮?

 今、夜白の目の前で刃を交わすのは、世界大戦の最前線にいた伝説的ウィザードたちだ。確固たる実力を持って歴史を動かしてきた二人が繰り出す魔法、絶技は今まで経験してきたどれよりも圧倒的だった。

 二人は数メートルほどの距離を空け、ウォンドを構え直した。

 その姿はほぼ同時に黒い靄に包まれる。

 どこからか甲高い金属音が響いた。上だ。夜白が上空を見た時にはすでに二人の姿はなかった。忠虎と七篠は黒い靄を残し、空間転移によって跳んでいた。

 夜白の目の前で幾度となく黒い靄が現れては消える。異次元の剣戟は互いに致命傷を与えられない。斬り結んだ二人は、再び向かい合うようにして屋上の中心に姿を現す。

 忠虎と七篠はすでに詠唱を終えていた。

「「放射・変化系統複合魔法〈龍星〉」」

 相対した二人はこんなときにも関わらず笑った。

「技が被ったね」

 夜白はハッと空を見上げる。いつの間にか夜空は、数え切れないほどの黄金の光球によって埋め尽くされていた。

「私たちは同じ人に師事した。仕方がなかろう」

 途轍もないほどの轟音と閃光が空で発生したかと思うと、煌めく数多の光球が、流星群のように金色の尾を引きながら降ってきた。

 どちらが忠虎で、どちらが七篠の魔法か。判別はつかない。けれど落星の如き魔法は吸い込まれるように二人の元に容赦なく降り注いだ。

 まるでミサイルの打ち合いの如き爆発の連鎖。大気が震え、轟音が耳をつんざく。夜白は顔を伏せるだけで精一杯だった。

「……な……?」

 呻いていた夜白だったが、少しすると爆風によって奪われた五感が徐々に戻ってくる。夜白は土煙の奥に必死に目を凝らす。土煙が晴れ、忠虎の姿を捉えた夜白は頭が真っ白になった。

「忠虎!!」

 血溜まりの中で倒れ伏していたのは忠虎だった。

 根が張ったように動けなかった夜白は、傷ついた忠虎を目にした瞬間。弾丸のように飛び出していた。制服が血に汚れるが、そんなものおかまいなしに忠虎に駆け寄る。彼の口元に耳を寄せる。まだ息はある。だが生きているのが不思議なほどのケガだった。傍らには彼の愛刀の国崩しが転がっていた。

「…………だから言ったじゃないか。キミには才能がないってね」

 呻くような声に視線をやると、少し離れた場所に七篠が立っていた。だが無傷ではない。白い軍服は汚れ、身体のあちこちに傷を作り、血が溢れている。報土を杖代わりにし、何とか立っているが、青い瞳から意志は失われていなかった。

 けれど夜白は最強の魔女に対し無防備に背を向け、忠虎に向き直る。

「忠虎! 起きなさい! 起きなさいってば!!」

「起こしてどうするんだい? どうせまたボクに倒されるだけだ。トラはボクより弱い。キミはそのトラより弱い」

 七篠の流れるような軽口は、夜白にほとんど届いていなかった。ゆっくりと上げた顔を、七篠に向けた。

 凍るほどに冷たい声だった。

「黙りなさい」

「……何だって?」

「この人は強い。世界中の誰よりも」

 怒りを湛えた夜白の双眸が七篠を真っ向から射抜いた。

 完全に優勢のはずの七篠の顔が歪む。こちらの頑なな態度に腹を立てたのか。もしかすると納得する部分があるのか。

「何でアンタは好きな人を傷つける真似するの」

 その言葉は血の臭いに満ちた戦場には、似つかわしくないものだと分かっていた。それでも夜白は言った。

「大嫌いだから」憎むべき敵は地に伏せているのだ。だったら笑えばいい。けれど七篠の顔はどこか苦しげだった。

 それが理解できなかった。憎かった。腹が立った。

 夜白は傷だらけの忠虎を横たえ、彼をかばうようにして立つ。七篠と向き合い、白光を構えた。

「アタシはコイツが好きよ。大好き」

 飾らない真っ直ぐな言葉を乗せた刃が、七篠に突きつけられた。

「……遺言はもう終わりかい?」

 からかう言葉は、けれど僅かに怒りに震えていた。

 睨み合う二人。張り詰めた緊張はいつ弾けてしまってもおかしくはなかった。

 夜白は想った。自分はここで負けるかもしれない。けれど逃げるという選択肢はない。

 前に進むのみ。それがどんなに険しい道だって。

 そう決意し、踏み出そうとした夜白は肩を弱々しく叩かれる。

 夜白は確かにその時、呼吸すらも忘れ、振り返った。

                   ※※※                  

 どうやら意識を失っていたらしい。おぼつかない足取りながらも、忠虎はどうにか立ち上がった。

 そしてかばうようにして立っていた夜白の肩を叩く。

「――――」

 夜白が振り返り、何かを叫んでいた。だが朦朧とした意識では、夜白の表情も叫びも混濁して感じられた。それでも夜白が疲労困憊していることだけは分かった。ここまで共に戦ってきたのだ。疲れていないはずがない、傷ついていないはずがない。

 一刻も早くシノを倒さねばならない。

 だから命を――

「…………」

 自らの救いようのない馬鹿さ加減は、一瞬にして意識を明瞭にしてくれる。

「ほら意識飛んでるじゃない、寝てなさい!」

 夜白の悲しそうな声が聞こえた。心配そうな顔が見えた。忠虎は彼女をもっと苦しめる選択をしようとしていた。

 ――命を懸けて貴様を守る。

 考えうる限りの最悪を選ぶつもりだった。

 全く東儀忠虎という人間は何と愚かなのだ。夜白と出会い、彼女から学び、ようやく心が変わったと思っていた。だが、少し劣勢に陥ればすぐに心は間違った方向へと向かう。

 忠虎は一つ息を吐く。弱々しく頬を張り、短く呟く。

「……イージーに行け、東儀忠虎」

 こちらの身を案じるために伸ばされた夜白の右手を取り、彼女に向き直った、

「大丈夫だ夜白。――私を信じてくれ」

 夜白の逡巡は秒にも満たなかった。強く頷いた夜白に背中を押され、忠虎は一歩前に進み出た。

 シノが疑わしげな目つきを向ける。

「トラ……キミ、何考えている」

 忠虎は落ちていた国崩しを拾い上げ、構え直した。

「シノ。貴様に、絶対負けない方法を見せてやろう」


 忠虎の国崩しと、シノの報土が激突し、薄暗い天防塔の屋上に激しい閃光が散った。

 激しい衝撃が忠虎の身体に悲鳴を上げさせる。それほど長くは保たない。早く決着をつけなくてはならない。

 忠虎の身体が金色に光り輝いている。シノと再び斬り結んでいた忠虎は、残り少ない魔力を全て一つの魔法に注ぎ込んでいた。

 変性・変化系統複合魔法〈至雷〉

 電気へと変換させた魔力を、末梢神経に送り込むことで、反応速度、身体能力を著しく向上させる魔法であり、同時に体外へ発散させた電気を身に纏うことで、攻撃にも防御にも雷撃を付属させることを可能とした忠虎にとって奥義とも言える技だった。

 忠虎が国崩しを構えたかと思うと、姿が掻き消える。バチィィッ、と激しく空気を揺らし、忠虎はシノの背後に現れる。

 真横に振りかぶった国崩しが、鋭く金色の弧を描き、シノを狙う。

 しかしシノも即座に反応する。縦に構えた報土で忠虎の攻撃を受ける。宙で刃と刃が交差し、二人は大きく後方へ吹き飛ばされる。

 今の一閃。報土ごとシノの身体を真っ二つにするつもりだった。忠虎にとってこれ以上ない会心の一撃も防御されてしまう。どうやらシノ自身も、自らを強化する魔法を使っているようだった。

 現にシノの身体も淡く蒼色に輝いている。こちらを見てシノが言う。

「もう限界だろう!」

 忠虎には言葉を返す余裕もない。距離の空いたシノに向かい刃を振るうと、国崩しから一直線に雷撃が跳ぶ。

 避けられる速度ではない。雷撃は光速に近い速さで走っているのだから当然だ。

 しかしシノは冷静に的確に刃を振るう。報土に激突した雷撃は四散し、辺りに幾多の火花を散らした。

 シノが低く重心を落とし、地面を踏み抜く。霞むほどの速度で迫ってくる。

 上段斬りだ。そう読んだ忠虎は、避けるため左に身体全体を動かした。死を帯びた魔剣が紙一重で、忠虎がいた場所を斬り裂く。

 回避に成功した忠虎は反撃のため、国崩しを構えようとした。だが忠虎が見たのは、刃を返し、急速に跳ね上がってくる漆黒の刀身だった。今からでは回避は不可能だ。忠虎は斬撃の軌道上に強引に剣の柄をねじ込んだ。

 甲高い金属音が響く。何とか攻撃は防げた。だが今の一撃目も、二撃目も綱渡りの防御でしかない。奇跡は何度も続かない……

「――ッ!?」

 忠虎は三度、目を疑った。シノの上段に振り切られた刃がまたしても返ったのだ。繰り返しのような、いや一度目よりもさらに鋭い上段斬りが迫り来る。腹を括れ、中途半端な防御も回避も死へ繋がるだけだ!

 忠虎は国崩しを真横に振りかぶり、

「ウッ……ォォォォォッ!!」

 裂帛の咆哮と共に全力で振り抜いた。

 刃と刃の衝突地で、爆発じみた衝撃が発生した。二人は大きく後方へ吹き飛ばされ、

「「ハァァァァァァァッ!!」」

 そしてまったく同じ速度で二人は中央へ駆け出し、刀をぶつけ合う。

 シノの踊るように美しい剣舞が忠虎に降り注ぐ。忠虎はそれを無骨な帝国海軍式剣術で防いでいく。

 剣と剣のぶつかり合い。永遠に終わらない演舞のように思えた。

 辛かった、きつかった。酸素が足りない。疲労が重い。魔力がみるみる底をつく。

 満身創痍の身体にむち打ち、忠虎は国崩しを振るう。

 どうしたって致命傷を与えられない。シノは速く、強い。忠虎にとっての奥義を使ってなお、差は大きい。

「どうしたトラ! もうお終いかい!?」

「……ッ!」

 シノの斬撃を避けるために思いっきり空へ飛ぶ。

 地上よりいくらか高い場所で滞空した忠虎の前に、シノもまた飛んでくる。二人は宵闇で向かい合う。

 忠虎は国崩しを鞘に仕舞い、だがすぐ抜けるよう柄には手をかける。

「一撃必殺の抜刀術か! 当たれば勝ち、外れれば敗け。結局キミには――それ《・・》しかできないんだよ!」

 シノは怒鳴るように言った。

「命を懸ける。そうまでしても、ボクには勝てない。積み重ねた歴史が証明している確固たる事実だ!」

「ならば変えてみせる。私たちの手で」

「いい加減に諦めろよ!」

 シノが真っ直ぐに突っ込んできた。空気を切り裂き、二人の距離はみるみる縮まる。

 忠虎が放つのは、帝国海軍式剣術――超々高速抜刀〈繊月〉

 鞘と刀身の間に発生させた逆方向の磁力を利用した抜刀術を、限界まで強化させた身体能力を上乗せして振り抜く大技。一刀で敵を斬り伏せることのみを追求した、二の太刀いらずの一撃必殺。

 上段に構えたシノはすでに眼前。間合いは絶好。迷わず忠虎は技を放った。

 鳥の鳴き声のようにキィーと刀が鞘を走る音。少しだけ遅れて、バシュュッッ……! と、

 強烈な空気を斬り裂く音が響いた。

「――ッ!?」

 しかし、

 忠虎が放った抜刀術は、シノの鼻先を僅かに掠めるに留まった。大きく隙が出来た忠虎の眼前にシノは報土を突きつけた。

 冷や汗を流しながらシノが言った。

「……コンマ二秒剣を抜くのが遅ければボクを殺せたね」

 強化された腕の振りも磁力による付加速度も、鞘を走ることに伴った摩擦も考慮したはずだった。だが勝利を意識したか、ほんの僅かに焦った。抜くのが速かった。

 微小な積み重ねは、多大な誤差となり、形勢へ寄与する。

「……はぁはぁ」

 忠虎の全身を覆っていた金色の雷が消え去る。どうやら魔力切れらしい。疲労と傷が後払いで忠虎の身体に重くのしかかる。

「最期の策も不発に終わったね」

「……だが、貴様も無傷ではなかろう」シノからは当初の余裕は消え去っている。底知れない笑みの奥にも色濃い疲労が見える。傷も多い。追い詰めていることは確かだ。

「関係ない。何もかもこれで終幕だ。凡人のキミにも分かるように言ってあげよう」

 シノが報土を突きつけながら言った。

「キミ《・・》の負けだ」

 忠虎は未だ収まらない荒い息と共に、言葉を押し出した。

「まだ終わっていない」

「終わってる。全て。とっくの昔に。72年前に終わっていた」

 忠虎は国崩しを構えようとした。

「終わってないと言っている!!」

 だがシノは報土を振るい、国崩しを弾き飛ばした。

 キン、と甲高い音が響く。叫びに合わせて上げた国崩しがシノによって弾かれ、屋上へ落ちていく音だった。

 再び報土を突きつけ、シノが言った。

「余計な真似は止めた方がいい」

 もはや立ち向かう矛すらもなくなってしまった。いつしか忠虎は深く顔を伏せていた。

「〈万能の英雄〉も最期は無様なものだね。……まあいい」

 報土が振り上げられる。

「さよなら」

「シノ」

 忠虎はシノを呼び止める。それを命乞いだと思ったのか、彼女の顔が奇妙な笑いへと変わる。

 だが違った。

「この策。最初から命など懸けていない」

「……何を」

 忠虎は顔を上げる。そこには一欠片の絶望もない。瞳に眩い希望を乗せ、忠虎は一歩前へ踏み出した。

「まだ終わっていない。そう言っただろう」

 気圧されたシノが空の上で確かに一歩後退った。

 弧を描き、降下する国崩しを忠虎は見た。いいや違う。その《・・》を見ていた。

 美しい白刃が車輪のように回転しながら屋上へ落下している。その軌道は吸い込まれるように、

 新しい持ち主の元へ届く。

 ――双眸に硬い意志をみなぎらせた夜白が、忠虎の想いごと刀の柄を掴んだ。

 成長し、正しき資質を備えた夜白を国崩しは拒否しないはずだ。

「キミ《・・》たち《・・》――」

 シノが屋上を一瞥し、再びこちらを見た。

「そうだ。確かに私一人では貴様に勝てない。だから、だから私たちは共に手を取るのだ!!」

 叫び、忠虎は大きく飛び退る。

 忠虎は静かに告げた。

「そいつ《・・・》は貴様のものだ」

 夜白が紫炎を纏った国崩しを空に目がけて振るった。

 地上から急上昇する紫色の火線が、シノを瞬く間に飲み込んだ。

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