第03話 この物語には問題がある
わたしはコーハイが示す本の山を見る。それらの本には表紙に『差し止め』の判が押されている。
差し止め判はまるでシールのように貼られていて、とはいえ剥がしたり出来ず、最初からそういうデザインの表紙にしか見えないほどぴったりくっついている。
え、ちょっと待って。これ全部そうなのか? そりゃ本棚から取り出されて長期間戻されてないのなら何かしらの問題が見つかったと考えるのが自然か……。蔵書管理は基本的に任せっきりだったので強くは言えないが、これは思った以上に骨の折れる作業量である。
これらの物語にはバグが――わたし達が『ティンカー』と呼んでいるものが存在する。
ティンカーの規模は様々であり、要因も多岐に渡る。登場人物が間違っていたり、起こるべき事件が起きなかったり、小道具が消滅していたり……どんなに小さな原因でも、物語の進行を妨げる事象はすべてティンカーだと言える。
つまりティンカーを見つけ出し、除去、修復などを行い正しい物語に戻すことがリオルガーの務めである。
物語をあるべき姿に。これがリオルガーの基本原則であり、行動原理でもある。
「だからシショー、カメラはこっちー」
……格好つけて説明することすら許されないのか。
「それにしてもこの頭巾みたいなの暑い……ふう、これで少しはマシになった」
コーハイが修道服のフード部分を外し、その銀髪を表に出す。サラサラの長髪が宙に舞う姿が少し円盤に見えたのは気のせいだろう。その後髪をゴムで束ねて長いポニーテールのようなヘアスタイルに変える。耳の後ろからうなじにかけてのラインがやけに艶めかしい……。
「どうかしましたか先輩」
「え、いや。何でもない……」
僅かな視線も見逃さないのな。しかしちょっと見惚れていたかもしれないことはバレていなかったようだ、助かった。
「良いんですよコーハイちゃんに見惚れても。先輩の目的は完璧な二次元嫁を作ることでしたもんね」
「どこの変態だよ」
思いっきりバレていた。
そして自分で二次元嫁とか言うな。
「いやあ、髪の毛が長いとお手入れとかけっこう大変なんですよー。マナちゃんみたいに短くするのもアリなのかなあ」
「お前みたいにズボラなやつが髪を痛めて長髪のイメージを下げてるんだよ」
「むむっ、これでもお手入れには気を遣ってる方なんですよ。だからほら、こんなにツヤツヤでキューティクル、枝毛なんて一本たりとも残しませんよ。お残しは許しまへんで~」
「それは違うキャラが連想されるから止めろ」
「マナちゃんはいつも肩にかかるかどうかってくらい短めの髪型だけどー、伸ばしたりはしないの?」
「うーん……シショーが長髪の方がお好みとあらば、呪いの日本人形バリに伸ばすッス」
やめて、西洋人形が一気に菊人形のイメージになっちゃう。。
そもそも長い髪が好みというわけでもない。そりゃ手入れの行き届いた長髪にうっとりすることはあるかもしれないが。しかしこの空間に長髪が二人も居たら多分ウザい。あと髪の毛が本の間に挟まって今度は本の手入れが大変になるという現実的で残念な理由もある。
「マナちゃんはそのままのマナちゃんが一番だよ!」
自分でもびっくりするほどのいい笑顔。作り笑顔選手権があれば入賞くらいできそう。
「シショー……!」
「先輩手慣れたナンパ師みたいですね。てゆーかやっぱりコーハイちゃんとマナちゃんで明らかに扱いが違う。……だが、それがいい」
駄目だこいつ……早くなんとかしないと。
いや、そんなこと言ってる場合じゃない。
未だに物語の本筋入ってないってどういうことよ。
「なるほど、これはシショーが伝説の美少女を探しに行くお話だったんスか」
……そうだったらどれほど良かったか。
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