第6話
翌日の夜、大学近くの大衆居酒屋で哲人と秀喜は待ち合わせをした。
「秀喜おせーぞ」
「おう、わりい。部活がちょっと長引いちゃって」
秀喜は手をパーにして振りながら哲人のほうへ小走りでやってきた。二人はお互いの顔を見合わせた後、お店の扉を開けた。
中に入るとすぐに店員がやってきて人数を聞いてきた。哲人は男二人ですと答えた。案内されたテーブルにはどこのお店にもある調味料やメニューや箸入れが置いてあった。
「さてと、とりあえずビールにしますか」
秀喜は慣れたような感じで哲人に言った。おそらく部活で飲み会を頻繁にやっているからなのだろうと哲人は思った。
「じゃあ俺もビールで」
注文を聞いた若い女性店員は忙しそうに店の奥へ走っていった。
哲人は大学に入ってから飲み会は数回しか参加したことがない。飲み会に出る意義が見いだせないのだ。何度か参加したサークルの飲み会も馴れ合いのような感じではっちゃけられない。哲人は半ば諦めながらまあこんなものかと自分に言い聞かせていた。入学する前に思い描いていた華のキャンパスライフはどこへいったのだろうか。
頼んだビールが来ると二人は乾杯した。秀喜は一気に飲んだビールジョッキをカタンとテーブルに置き、哲人に言った。
「研究室のことなんだけどさ、部活の先輩から聞いたところによると研究室によって結構差があるみたいだぜ」
「差っていうと」
「理系の研究室って文系のゼミと違って拘束時間が長かったりするんだ。その拘束時間が自由なところもあれば24時間研究室に泊まり込みってところもあるみたいなんだ」
「ふうん」
哲人は興味がなさそうに答えた。研究室なんてどこでもいいだろう、そう思っていた。
「あと、大学院に進学するかどうかも結構重要なんだよ。哲人は就職か進学決めてる?」
「俺は今のところ大学院に進学しようと思っている。研究職に就きたいからね」
「進学するなら研究に力を入れている江川教授のところに行ったほうがいいぞ」
哲人は一応研究職に就きたいと思っていたが、心の中ではまだ決めあぐねていた。大学に入ってから分かったことだが、自分は理系科目があまり好きではないと薄々感じていた。高校時代になんとなく理系クラスに決めたことを後悔し始めていた。T大学の理系学部は研究者養成機関のようなものなので、ここの理系学生はほとんどが大学院進学をする。哲人も周りにならってそのまま大学院進学をするものなんだなと思っていた。
「あの先生の講義受けたことあるけど、内容が難しすぎてさっぱりだった。単位もギリギリもらったよ」
「江川研は就職先もいいらしいぞ。大手企業に学生をバンバン送り込んでいるらしいからな。コネもあるみたいだし」
「コネかあ」
哲人はニヤッと笑った。コネがあれば楽に大手企業に就職できて一生安泰だ。年収も将来的には1000万はくだらないだろう。
「拘束時間の緩さで言ったら野村研らしい。いつ研究室に来て研究しても大丈夫みたい。就職先の情報は入手できなかったけど」
「俺は拘束時間が緩いほうがいいな。就職先もT大だから大手に決まるでしょ」
「就職を簡単に見てると痛い目にあうぞ」
「秀喜は進学しないのか」
「俺は進学しないで就職しようと思っている。いわゆる文系就職ってやつだな。研究職なんて暗くて俺の性に合わないよ」
「お前は営業向きだよな」
哲人は秀喜のような体育会系の学生が一流企業から真っ先に内定をもらうんだなと思っていた。
「ま、研究室配属の前に研究室訪問しないといけないみたいだから、その時また決めればいいさ」
秀喜は店員を呼ぶボタンをピッと鳴らし、ビールを頼んで話題を変えた。ただ哲人と飲みたかっただけのようだ。二人はその日の深夜十二時近くまで一緒にくだらない話をした。
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