あの日の記憶2【episodeソウシ】
日が暮れる頃、ようやくシルベニア国に到着した。ティスニーもシルベニアも広大だが、幸いメルモルト公爵領はシルベニアにほとんど隣接していると言ってもよい程に近いため、どこかに宿泊する必要はない。
「お疲れ様です、ロイ様、ソウシ様」
シルベニアの領地に入ると、すぐに馬車が止まった。そしてルジークがドアを開ける。
「そんな言うほど疲れてない」
しまった。発した声の低さに後悔する。俺はふとした返事が冷たいらしい。よくマナに文句言われてたけど、それは生まれ変わっても変わらなかったみたいだ。
今のは、心配しなくても大丈夫だから、そんなに気にかけなくてもいいという意味で言いたかった。けど、ちょっと態度悪かったか?
馬車を降りながらルジークを見ると、優しい顔をしていた。怒ってないみたいだ。
まだ7歳の俺に偉そうにされたら、クソガキ!とか思わないのか気になるけど、そこは主従関係がしっかりしているんだろう。ことさらルジークは忠誠心が強い。だからこそ、その関係を崩さないように気を付けなければいけないと思う。
「ありがとう」
照れ臭いけど、こういった言葉は言わなきゃ伝わらないってマナが言ってた。今度は、思った以上に小さくなってしまった。恥ずかしくて、ルジークの顔は見ない。
辺りを見回すと、森の中のため民家は見当たらない。しかもティスニーを抜けたばかりで、シルベニア城まではまだまだ遠い。
それでも、馬車はここまでだ。
「準備は整っております」
出迎えてくれたキャロラインがそう言った。キャロラインは、語彙力のない俺が言うなれば、セクシーダイナマイトボディの女。たわわな胸は大人しく服に収まるはずもなく、ぷるんと飛び出しそうだ。そして、服の上からでも分かる腰の締まりと程よい大きさの尻。いや、程よいと言っても、俺はもう少し小さい方が好み──って、何考えてんだ7歳児!思いきり頬をひっぱたいておいた。
「ど、どうしたソウシ」
「いや、大丈夫」
ロイが若干引き気味だ。
騙されるな、俺。キャロラインは確かにセクシーダイナマイトボディ、略してSDBだ。
だが、SDBはそれだけではない。キャロラインはSDB=萎れた道楽ババァであることを忘れてはならない!
軽く500歳は越えてるんだぞ。このババァ。
「誰がババァだバカタレ」
「いって!!!」
手に持っていた大きな杖で頭を叩かれた。声に出してないのに!
「ほら、早く帰りますよ。入って入って」
キャロラインは不思議な陣の中へ全員を誘導する。怪しく光るこれは、キャロラインが作った魔法陣だ。
そう、この世界には魔法が存在する。正確にはこの国には、だが。
シルベニアは魔法使いの国と言われ、魔力を備えた血筋が多く存在する。魔力があるかどうかは生まれてすぐには分からず、15歳の時にある儀式を行うことによって開花するのだ。 まぁそのあたりは良く分からないけど、とりあえず15歳以下の者は魔法が使えないみたいだ。
というか。
シルベニアといい、ティスニーといい、魔法使いの国といい……。
初めは気付かなかった。だけど少しずつ、少しずつが繋がっていった今は確信を持って言える。
これ、完全に俺が考えた世界じゃん。
どうやら俺とマナは、俺が中学の時にぼやっと考えた世界に転生してしまったみたいだ。
まじか。どんな設定にしてたっけ?
そう考えている間に魔法陣は発動され、辺りは静かな夜の森に戻った。
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