あの日の記憶1【episodeソウシ】
馬に引かれて揺れる車内。母上はもう少し話したいからと、俺とロイだけ先に帰った。シルベニア国には自動車というものがない。ティスニー国では時々見かけたため、技術の発展がないわけではないんだろう。
まぁ、自動車と言っても本当に初期のガソリン車のような、屋根のない馬車にエンジンがついたようなものだけど。そう思うと、自分達が知っている自動車がいかに未来的なデザインであるか実感する。この世界も、いつかあんな風になるんだろうか。
「ソウシは……確認しなくてよかったのか?」
ふと、ちらりと気遣うように俺を見るロイ。ほんと、なんでそういうことができるのか。まだ9歳だろ?俺何してたっけ?さすがに枝豆は鼻に突っ込んでないだろうけどさ。
何を、なんて聞くまでもない。確認したいとロイに話したのは俺だから。
いつかこっちの世界でマナに会ったら、確かめたいことがあった。お前は、覚えてるのか?俺達の、多分最後であろう瞬間を……って。
あの日、俺達はそれぞれゲームに没頭していた。そして、いきなり現れたメッセージ。
『生きたいですか?』
これはきっと、こっちの世界に生まれ変わるための選択肢だったんだと思う。
気がかりなのは、そのあとのことだ。
俺達は、あの後死んだ。
マナは気付いていなかったが、俺は見てしまったんだ。『生きたいですか?』の黒いメッセージ画面に反射した、俺達の背後にいる男を。
俺はとっさにYESを押してマナを庇い、そして肩を刺された。相手は刃物を持っていたんだと思う。
俺の血を見たショックに加え、俺に庇われたせいで反応が遅れたことで、いつもなら男一人くらい軽く倒せるマナが刺された。
『マナ!!!』
『ソ、ウシ……』
叫ぶ俺に弱々しく手を伸ばすマナ。その手は届かなかった。
どっちが先に死んだのかは分からない。けど、間違いなくあの日、俺達は誰かに殺された。
思い出した当初は怒り、苦しみ、憎しみ、そして残された家族や友人への懺悔、色んな想いが溢れて混乱した。
だけど、すぐにマナを思い出したんだ。絶対にあいつもこの世界のどこかで生きている。マナは一人で苦しんでいないだろうか、それだけが気がかりだった。
必ず見つけ出す。そう誓い、ようやく見つけた唯一の姉。けれど、マナはその時の記憶がないようで、相変わらずのアホっぷりだった。
どれほど安心しただろう。マナがマナでいてくれたことに、どれほど救われただろう。
「最初はさ、確認しようと思ってたんだ。あの時マナがどうなったのか気になって。でも、あいつがあまりにも屈託なく笑うから。なんか、聞いたらそれが消えるんじゃないかと思って。もういいかなって」
「そうか……」
「うん、あいつが生きてて、アホみたいにヘラヘラ笑ってるなら、それでいい。わざわざ思い出させることでもないから」
これは強がりなんかじゃない。シスコンと言われるかもしれないが、俺にとってはマナがマナでいられるなら、何だっていい。
「なんだか、どっちが兄か分からないな」
はにかむように笑うロイ。
そりゃそうだろう、俺は22歳の記憶を持ってるんだから。俺にとっては、9歳のロイは確かに幼い。
だけど、いきなり前世の記憶を思い出して戸惑う俺を変わらずに受け止めて、話を聞いてくれた。落ち着くまで何度でも。それがどんなに救われたことか。
「俺にとっては、ロイは大事な兄さんだ。それ以外の何者でもないよ」
幼く感じても、やはりどこかでロイを兄として慕う自分がいる。
「僕にとっても、ソウシは大切な弟だよ」
ロイは嬉しそうな笑顔を見せた。
やっぱり、俺は姉兄に恵まれている。
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