婚約4


 冷静に、胸に手を当てて考える。けれど何度思い返しても、ロイはプロポーズをしていたし、私は受けていた。


 そうか、私8歳にして婚約者できたのか。……早くない?あれ、貴族ってそういうもの?この世界はまだよく分からないけど……まぁ、フラウディア様もソウシと婚約させようとしていたし、そういうものなんだろう。


 そうかそうか、ロイと婚約かぁ……って、そんなバカな!せっかくこんな美少女に生まれ変わったんだ。次こそ自由で素敵な恋愛がしたい!


「ロイったら、あなたやるわね。ええ、ええ、もちろんマナリエルが嫁いで来てくれるなら、私はどちらと結ばれても大歓迎よ!けれど、あなたは第一王子。次期国王なのよねぇ……」


 フラウディア様は喜びながらも、どこか複雑な顔をしていた。次期国王ということは、ロイと婚約すると次期王妃ってこと?無理無理無理!!

 あれでしょ?プリンセスレッスンとか言って、頭に本乗せて歩いたり、何か難しい勉強させられたり、音楽のお稽古やら食事のマナーやら、色々叩き込まれるんでしょ?


 そんでもって、色んな家柄とのお付き合いがあって、好き嫌い言わずにオホホホーって上手く接してかなきゃいけないんでしょ?


「無理です無理です!私にはとても次期国王の婚約者なんて務まりません!」


「大丈夫だよマナリエル。まだ8歳なんだから、王妃として学ぶ時間はたくさんある」


 頭ポンするんじゃないよ、ロイ。


「だからね……それがイヤだって言ってるんでしょうがよぉ!私は歴史深い家元に嫁ぐより、IT企業の社長の嫁になりたい!」


「あいてぃー?」


「ぶはっ!マナ、お前……っ」


 ITの意味が分からないロイは首を傾げていたけど、ソウシは吹き出して親指を立てていた。ウケたらしい。


 しがらみとか習わしとかっていうのは、きっと大事なものなんだろうけど、私にとってはぶっちゃけ面倒でしかない。まぁ、公爵令嬢である以上、自由な恋愛というのは難しいのかもしれないけど。それでも、私にとって8歳で恋を終えるのはイヤだった。


「マナリエルは、ロイではイヤかしら?」


 心配そうにフラウディア様は訪ねる。


「いえ、そういう訳では……」


「ロイがダメなら、ソウシでもいいのよ?」


「いえ、そういう訳でも……」


「そうよね、そうよね。ロイの方がいいのよね。でもねぇ、ロイは第一王子なのよ。つまり、婚約者を他にも用意しないといけないの。それではやっぱりダメよ。マナリエルは唯一でなくちゃ」


 私の声は全く届いていないようだけど。それよりも、第一王子は婚約者を他にも用意??


「シルベニア国では、第一王子は王位継承するまで、婚約者は数人持つ決まりがあるの。まぁそれも、王族に見合った年頃の令嬢がいる場合だけどね」


 だけどね、という割に顔が浮かないのは、きっと見合った年頃の令嬢がいるんだろう。さっきも候補者からそろそろ選ぶとか言っていたし。

 え、待ってよ。それなら私がロイの婚約者になったからと言って、必ず結婚しなきゃいけないわけじゃないよね?


「ちなみに、ロイは婚約者候補の女の子とは会ったことあるの?」


「会ったことないし、今後会うつもりもないよ。僕はマナリエル以外と結婚するつもりはないからね」


 ロイが私の考えを覗いたかのように念を押す。けど、そんなの関係ない!今日私と会ったのも初めてだし、他の候補者に会ったら気が変わるかもしれないじゃない。ロイもまだ9歳、気分屋さんなはずよ。


 ちらりとフラウディア様を見れば、にこりと微笑んでくれた。完全に私の返事待ちだ。ロイかソウシのどちらと婚約するのか、それ以外の選択肢は与えてくれないだろう。


 というか、最初からそれが目的で来たんだな、この人。大好きなお母様の娘が欲しかったんだろう。ロイは完全に母親似だと理解した。


 どうしよう。


 どうする?


 答えはもう決まってる。


「私はこのまま、ロイ様のプロポーズをお受けしたいと思いますわ」


 どうか候補者の令嬢が、ロイ好みの美少女でありますように。

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