婚約2
「で、マナはどこまで思い出したんだ?」
放置されて若干拗ねていたが、復活したソウシが話題を変えた。無理矢理ね。可愛いやつめ。
「どこまでって……どこまでがどこまで?」
「なんだその切り返しは」
「だって分からないじゃない。私は全部って言いたいけど、もしかしたら忘れている部分があるかもしれないし。あれよ、あれ。母親に忘れ物はない?って聞かれても、あるって答えるわけないじゃない?もしあったとしても忘れてるんだから。だから、どこまでって聞かれても、思い出した分だけとしか答えようがないわ」
「出たな屁理屈ババァ」
「3歳、枝豆を入るだけ鼻に突っ込んで耳鼻科へ連行。5歳、裸族になって小物をブラブラ振り乱すことにハマる。10歳、好きな子へのラブレターに初挑戦するも、結局渡せずに机の引き出しに眠ったまま。宛名はユカリちゃんで──」
「もういいです」
「なによ、まだ覚えてることはたくさんあるわよ」
「もう結構ですごめんなさい」
「買われて困るケンカは売るんじゃねぇよ」
「マナリエル、僕と婚約しよう」
「いいわよ、ロイ。ていうか、ソウシは何を思い出したの?」
「俺も同じくらいだと思うよ。お前に散々こき使われてたことは、悲しいほど鮮明に覚えてる」
「だからお前って言うなっつってんだろ、口悪いな」
「その可愛い顔でその話し方やめて、なんか落ち込む」
「やだ可愛いとか。やだもう」
思わず照れて、ソウシの背中をバンバンと叩いた。こういうことサラリと言っちゃうあたり、ソウシも今世は女子に騒がれるだろうな。
久しぶりに姉弟で会話をして、マナとして飾らない自分を出せた感じがする。いつも自分らしくしているつもりでも、やっぱり弟への遠慮のなさは別格みたい。胸がスッと軽くなった気がした。
事情を知るロイにも、これからは気楽に話せそうだし。イケメン王子だし。
「うん、ソウシとロイに会えてよかった!!」
思いきり笑えば、二人からも笑顔が返ってきた。なんか幸せ。
「じゃぁ、そろそろ戻ろうか!お母様達もたくさん話せただろうし、部屋まで案内するよ!」
お母様とフラウディア様もゆっくり話せただろう。ナディアが心配し始める前に戻ろう。一応この二人は王子だから、いくら敷地内でもあんまり護衛と離れさせたらダメよね。
「そうだなー、多分ルジークもソワソワする頃だし、顔見せとくか」
「ルジーク?」
ソウシから聞き慣れない名前が聞こえた。
「ルジークは、僕とソウシの護衛の一人だよ」
「へぇ……強いの?」
ロイの言葉に思わず反応する。つい気になってしまうのだ。
私とどちらが強いのか。
ソウシは私の目が光ったのを見逃さず、ニヤリと笑った。
「強いぜ、かなり」
まぁ曲がりなりにも一国の王子を護衛する立場にあるのだから、弱いはずもないのだけど。
「あんたより?」
「もちろん。ま、でもマナと比べたら怖くないけどな」
「マナリエル……いや、マナはそんなに強かったのか?」
今度はロイが興味を示した。こんな美少女の令嬢を見てもピンとこないのも仕方ないよね。
「鬼だよ」
「おに?」
鬼はこの世界には存在しないのか、ロイは首を傾げた。まぁ、前世でも架空の存在だから、いないっちゃーいないけど。
「この世界だと……何だろう。魔王とかいるのかな?悪魔とか?」
「悪魔は分かる」
「それだ」
ソウシが顎で私を指した。レディに対して悪魔はないんじゃないの?鬼も大概だけど。
「マナは悪魔のように強かったよ。本気でやっても勝てなかった。というか、覇気が強すぎて勝てる気持ちが奪われるんだよな」
「そんなに……」
驚いた様子で、ロイは私を見た。
「まぁ今は子供だから、体格の差でルジークには勝てないだろうけどな。でも中身がマナなら、10年後にはいい勝負してるだろ。間違っても深窓の令嬢にはならないだろうから」
「ニコニコと愛想を振り撒くだけの世界で生きたいとは思わないね。どんな姿でどんな環境に生まれようとも、私は私らしく生きるだけ」
「マナらしい」
これは胸を張って言える。ただのゲーム大好きな一般人だろうと、絶世の美少女な公爵令嬢だろうと、私は私だ。自分らしく生きたいという気持ちは変わらない。
束縛なんて言葉はね、私の辞書にはないのよ。
そんなことを話しているうちに、お母様達のいる部屋へ着いた。軽くノックをして入ると、興奮は落ち着いたものの、満面の笑みを浮かべている二人がいた。
「おかえり。三人とも、ちょっとこちらへいらっしゃい」
フラウディア様がふふふ、と微笑みながら手招きをした。
イヤな予感しかしない。
「ふふ、あのね、今リリーと話したんだけど。マナリエル、うちのソウシと婚約しましょ?」
「ふふ、お断りさせていただきますね」
冗談じゃねーよ。
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