婚約1
興奮冷めやらぬ双方の母は放っておくことにして、三人で庭へ出ることにした。私のお気に入りのガーデンへ案内することになり、そこの中だけならと、お互いの付き人には下がってもらい、本当に三人だけになれた。
ガーデンは私の希望通りに作られていて、薔薇や紫陽花、ダリアやマガレットなど、ピンクと白の様々な花が咲き乱れている。ティスニー国は一応四季はあるけど、気候は春と秋が繰り返されている感じなので、花のシーズンというものがなかった。なので、一年中花に溢れる国という素敵なイメージがあり、観光地としても人気がある。
ガーデンに入って、チラリと二人を覗き見る。ソウシには聞きたいことがたくさんあるけど、ロイ様がいる手前、あまり込み入った話はできなさそうだな。
「それで、ソウシ。その様子だと彼女が前世の姉なのか?」
周囲に人の気配がないか確認したあと、ロイ様が口を開いた。
……は?
「そうそう、マナって言うんだよ!」
ソウシはあっけらかんと答えている。
……ん?
「なにあんた、ロイ様に記憶のこと話したの?」
「ああ、ロイは知ってるから安心して普通に話していいぞ!」
まじか。普通話す?気味悪がられないか心配にならないのかしら?ソウシが……意外すぎる。
ソウシは前世の頃から人見知りが激しい。もうそれは尋常じゃないくらいに。いや、人見知りというか、人間嫌いといった方が正しいかもしれない。
初対面では犯人を怪しむ警察官のような睨みをきかせ、顔見知りが近くにいると気配を消し、友人には声をかけられたら返事をする程度。だけど「好き」と判断した相手には、とことん懐く。
まるで猫みたいだと思う。そこが可愛いのだけど。
何にしても、ソウシがあの頃のままの性格なら、ロイ様に軽々しく話すことはしない。つまり、それだけ心を許しているということになる。
まぁ、フラウディア様の興奮した姿からして、人間嫌いは変わっていないんだろう。初対面の私にあれだけ親しく話していたから、相性がいいとか運命の相手とか思っちゃっていなければいいんだけど……。
…………うん、無理だな。いくら王子とはいえ、弟を攻略する気にはなれないわ。
やっぱり攻略するなら、ロイ様みたいな王道プリンスよね。ちらりと見ると、ロイ様はこちらをジッと見つめていた。そして、ふんわりと微笑む。
「マナリエルも、よければロイと呼んでください。ソウシと同じように話してくれて構いませんよ」
「え、いえ、そんな……」
自分がそれなりの地位にいようが、相手が他国の第一王子となれば失礼はできない。だって、私が何かしでかすことで、国同士の争いとかになっちゃったら切腹ものじゃない?
でもこの世界は切腹とかないのかな。なんだろう?まさかギロチン!?思わず首を押さえる。
すると、ロイ様が私の手を優しくとり、両手で包み込んだ。あ、なんかこれ安心する。
「前世の記憶が戻って、誰にも言えずに隠し続けるなんてツラいでしょう。せめて僕といる時だけでも心休まるように、立場など気にせずありのままのあなたでいてください」
別にマナの時の記憶があってもなくても、私は変わらずにさらけ出している。だからストレスを溜めるとか、ツラいという気持ちは、正直ない。マナもマナリエルも、私にとっては同じだから。
でも、慈悲深いロイ様の姿が神々しすぎて、これがゲームなら、今このシーンはスチルゲットだな、なんて考えながら脳内に録画をした。
私の1つ上とはいえ、まだ9歳。心が20代の私からすれば完全に子供だ。だけど、8歳の私も本物で。
ロイ様が愛らしいと思う反面、とてつもなくキラキラオーラを放つカッコいい王子様にも見えて、不覚にも9歳相手にときめいてしまった。いやこれ、成長したらやばいのではないだろか。
「ありがとうございます。ではこれからは遠慮なく、ロイと呼ばせていただきますね」
出そうな鼻血をぐっと堪え、精一杯笑ってみせた。
「もちろん、敬語も不要ですよ」
「そう言うなら、ロイもやめてくれないと」
「ふふ、そうだね」
手を取り合ったまま微笑み合うのは、なんだかくすぐったかった。
「あの、俺もいますけどー」
「今いいところだから黙ってて」
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