隣国からの来客1
この世界に来てから半年が経とうとしていた。この半年間で出した結論なんだけど、多分私はマナリエル自身だ。
つまり、いきなりマナの魂が8歳のマナリエルの体に入り込んだのではなく、マナリエルが突然マナだった時の記憶を思い出したような。
ややこしい話なんだけど、私は8年間、確かにマナリエルとして生きていた。最初は記憶が混乱していたのか、ナディアや両親のことが分からなかった。けれど、少しずつ他のメイドの名前やユーキラス家のこと、この世界のことを思い出すことができたのだ。まぁ、そうは言っても8歳が知っていることは限られているけど。
まず、ここはティスニー国。経済については分からないけど、なかなか発展しているような印象を受ける。完全な貴族社会で、ユーキラス家はメルモルトという領地を有し、由緒正しい公爵家の中でもトップに君臨している。王族と一番近い場所にいるとさえ言われている大きな家だ。
つまり、ユーキラス家と張り合えるのは王族くらいだぞっていう話。それくらい上下関係がハッキリしているのだ。
家にはたくさんの執事やメイドがいるけど、ナディアは私専属のメイドで、私よりも私のことを知り尽くしているような人。物心がついた頃にはもうナディアが隣にいて、何をするにも、どこに行くにも一緒だった。
「あれだよね、ナディアはマナリエル検定とかあったら、余裕で満点取れそう」
「そうですね、むしろ満点を取れないような人間はマナリエル様に仕える資格などありません」
「言う、ねぇ!ふっ!」
「当然です。そしてマナリエル様は朝から何をしていらっしゃるのでしょうか」
ポーカーフェイスで見つめてくる視線からは感情が読み取れないが、多分呆れを通り越して無の境地にいるのではないか。
「何って……素振りだけど?」
先ほどまでブンブン振っていた物を肩に担ぐ。実は結城マナの頃、学生時代に剣道をしていたのだ。なんなら、強豪校の剣道部主将として、団体戦でも個人戦でも全国制覇を成し遂げている。
そしてそれは、ソウシも同じである。幼い頃からゲームばかりしていた私達を心配した祖父が、知り合いの道場に連れて行ったのが始まりだった。初めはもちろんやる気なんて微塵もなかったが、祖父と師範が画策していたみたいで、気付けばゲームを攻略していくような感覚で夢中になっていった。
まぁ、ソウシは私に勝ったことないけどね。
「見れば分かります。私が聞いているのは、ユーキラス家のご令嬢が、なぜ、素振りをしているのかという質問です」
「いやね、ナディアが言ったんじゃない、強くなれって」
そしてまた素振りを始める。
「確かに言いましたけど、そういう意味の強さでは──って、見事すぎて止められないです何ですかその異常に仕上がっている素振りは」
やっぱり8歳にしては上手なのかな?この世界にも木刀が存在したんだけど、今の私には重すぎて振ることができなかった。だから、庭師のおじさんにお願いして軽めの木刀を作ってもらったのだ。せっかく美人に生まれたのに、筋肉モリモリのマッチョにはなりたくないよね。強くなるならスピード重視でいこう。
どの世界でも、狙われるのは弱い者だ。守れないのは、弱いから。自分を、大切な人を守るために必要なのは、守り抜く強さと傷付ける覚悟。この世界はマナが生きていた世界と違い、武器、戦、貧富の差などが身近にある。もちろんマナの世界でもあったことだが、遠い国の物語のような感覚だった。
お母様も安定期に入り、お腹がふっくらしてきた。今はお茶会などの出席も控え、自宅でのんびり過ごしていることが多い。というか、周りの者達がお母様を働かせないようにしているのだが。あのお腹に、私の弟か妹がいる。そう考えるだけで俄然守りたい気持ちが高まるのは、根っからの長女気質なんだろう。
今度こそ、弟を守ってみせる。
ん?今度こそ?
何で今度こそ?
弟を守れなかった経験はない。今離れているから?
まぁ、いっか。ソウシにはあと数ヵ月で会える。小さな疑問を振り切るように、小さな木刀をぶんぶんと振った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます