隣国からの来客2

 

「マナリエルちゃーん」


 タオルを首に巻いて水分補給をしていると、ぱたぱたとお母様が走「ったらあかーーーん!!!お母様何やってるの!!」

 光のごとく駆け寄り、走りそうになるお母様を止めた。私と同時に後ろから顔面蒼白でお母様の肩や腕を掴んで止めるメイド達。この人達、お腹の子が無事に生まれるまで休まる時ないんじゃないかしら。


「奥様!お願いですからどうか!ゆっくりと歩いてくださいませ!」


「あら、大丈夫よ、少し早歩きしただけだもの」


 周囲のメイド達の心配をよそに、本人はケロッとしている様子だ。お母様が神経質になりすぎてストレスを抱えているよりは、胎内環境は悪くないんだろうけど。やっぱり身重な女性が軽やかに動いていると焦ってしまうものよね。


「ところでお母様、何かご用ですか?」


「そうそう、この前幼馴染が来てくれるっていう話をしたでしょう?それが、今日なの!お昼過ぎには来られるみたいだから、お支度しなくちゃと思ってね」


 なるほど。まぁ、さすがにこのTシャツとショートパンツじゃNGだよね。でも幼馴染みたいだし、あのチェックのワンピースとかでいいかなー。それかこの前買ったブラウスでもいいかも。


「そういうわけだから、ナディア。打ち合わせ通りに頼みましたよ」


「畏まりました、奥様」


 何を着ようかなーなんて考えていたら、お母様がナディアに何か指示を出していた。二人の瞳がキラリと光ったように見えたのは、気のせい?


「では、マナリエル様。お支度に参りましょうか」


 お母様を見送って振り返ったナディアからは、ただならぬ気迫を感じた。地響きが聞こえそうな威圧感で、なんなら後ろに控えているメイド達も気合いが入っている様に見える。


「まずは、汗にまみれた体をキレイにしましょう」


 拒否権はないと悟った。



 *********



 そのまま浴室に連行され、3人がかりで文字通り体を丸洗いされた。人に入浴の手伝いをされるなんて恥ずかしすぎて拒否したいんだけど、基本的に令嬢は一人で入ることがないみたい。特に子供のうちは、全て任せるのが当然のようで。

 お風呂くらい、一人で静かに入りたい。けれど、何度説得してもOKはもらえなかった。


 すべすべの滑らかな肌、さらさらの艶やかな髪、そしてほんのり薔薇の香り。完璧だ。

 入浴を終えると、ドレッシングルームへ向かった。もはや拒否権がないことは承知しているので、言われるがままである。


 用意されていたのは、ベビーピンクの柔らかなドレスだった。瞳と同じ深紅のリボンと、パールのアクセサリーで装飾され、マナリエルのプラチナブロンドと深紅の瞳との相性抜群の衣装だった。

 初めて見たドレスだから、今日のために作られたのかな?

 髪はハーフアップにしてバレッタが留められ、長いウェーブの髪は背中へ緩やかに流れている。

 初めて見た時は超絶美少女だと思ったけど、自分の顔だと思うと見慣れてくるものね。

 幼いのでメイクは特に必要ない。というか、メイクをしなくても唇は色づいて艶めき、長い睫毛はくるんと上向きだ。こういう顔のタイプはメイクをしすぎると、かえって魅力が半減する。きっと大人になってもあまり濃いメイクは似合わないだろう。


 なんとも可愛らしく仕上がった頃、ドアをノックする音が聞こえた。メイドのメアリーが現れ、どうやらお母様の友達が到着したようだ。


「マナリエル様、今回は人払いをしてお迎えする必要があるため、メイドは私以外は一度下がらせていただきます」


「そうなの?分かった、ありがとう!」


 支度の礼を言うと、メイド達は一礼して外へ出た。

 来客の時、今までは重要な人物の時ほどメイドを増やして接客していたはず。今回は幼馴染だからもてなしはいらないってことなのかな?

 不思議に思いながらも、私とナディアは応接間へ向かった。



 *********



「失礼します」


 ノックのあと、静かにドアを開けて入る。せっかく隣国からお母様の幼馴染が来てくれたのだ、失礼があってはダメよね。細心の注意を払い、部屋へ入った。


 部屋に入ってすぐに目に映ったのは、眩しい笑顔のお母様と、同じようにとても嬉しそうに瞳を輝かせている女性。そしてその隣に立っていたのは、どこかの国の王子ですか?と言わんばかりの気品溢れる金髪の美少年と、仏頂面でクソ生意気そうな黒髪の少年だった。

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