目覚め3
結局着替えをどこでするのかと言うと、部屋の中にちゃんとドレッシングルームという場所があった。
私がいた部屋だけでも「|只者(ただもん)の家じゃねぇ」と思える広さだったけど、その部屋は寝室だったみたい。10坪あるらしいけど……10坪の寝室ってどうなの?
10坪って20畳くらいだよね?って聞いてみたけど、畳のない世界ではそんな単位はなかったようだ。
ドレッシングルームに入ると、思わず感嘆の声をもらしてしまった。何だここは。
寝室が正方形なら、ドレッシングルームは長方形の部屋だった。広さは寝室と同じくらいだろうか。つまり、とても長い。手前にパウダーコーナーがあり、ドレスやアクセサリー、靴などのアイテムがブワーーーっと効果音がつきそうなくらい、奥まで続いている。
「ねぇ、これって全部私のものなの?」
「もちろんでございますが……どうかされましたか?」
「ううん!なんでもない!」
当たり前の質問に、「何言ってんだ、こいつ」というような目でナディアが見てきた。主人に向ける顔じゃないでしょソレ。危ない危ない、変な質問は怪しまれる。
床はピンク色のふわっふわな絨毯が敷かれ、壁はシックなダークブラウン。パウダーコーナーは大理石が使われていて、ツヤツヤに光っていた。近くに陳列されているアクセサリーを見ると、一つ一つがやたら高そうだ。マナの時はあまり宝石やアクセサリーに興味がなかったため、正確な価値はいまいちピンとこないが、アクセサリー自身が価値を自覚していような気迫を感じる。「私、お高いんですのよ」と澄まし顔をしているように見えた。
「本日のお召し物ですが、いかがいたしましょう?」
フィッティングスペースにあるソファに座らされ、ナディアは近くのドレスを物色している。どんなドレスがあって、どんな時に着るものなのか、その使い分けがよく分からない。
お任せしたい旨を伝えると、畏まりましたと声が聞こえた。
ナディアのセンスがいいのか、私の好みを熟知しているのか。素直に可愛いと思えるチョイスだった。白地にベージュのリボンがあしらわれた、優しいカラーのワンピース。マナリエルの美しさは着飾って得るものではないので、シンプルな装いでも十分破壊的な美しさだ。まぁ、8歳なんだけどね。
「お|髪(ぐし)はいかがいたしましょう?」
「今日はこのままにするよ」
「畏まりました。それでは朝食に参りましょう」
ナディアに促されて、ドレッシングルームを出た。というか、ドレッシングルームって言い慣れてないから、毎回サラダにかけるドレッシングを想像しちゃうんだけど。
さっき入ってきたドアとは違うドアを開けると、リビングらしい場所へ出た。どうやら、ドレッシングルームは寝室とリビングの両方から出入りができるみたい。そもそも、あんなに広い寝室とドレッシングルームがあるのに、さらにリビングもあるんかーい!って突っ込みたい気持ちだけど。
どうやら、ナディアがノックして寝室に入ってきたドアの向こうは廊下だと思っていたけど、リビングだったみたい。リビングはお茶をしたり、勉強をしたりできそうな清潔感のある雰囲気だった。思わずキョロキョロと見渡してしまう。
寝室もドレッシングルームもそうだったけど、部屋の雰囲気や飾ってある置物など、どれもこれも私の好みどんぴしゃり。やっぱりマナリエル・ユーキラスは私自身なんだと感じた。
ナディアに促されて廊下に出ると、そこは気品溢れるハイセンスな空間だった。公爵家って、もっと重厚感のある重苦しいイメージだったけど、ここは正反対の爽やかな印象を受ける。きっとこの家の主であるユーキラス公爵が、このような空気を纏っているんだろうなぁ。あ、いや、ユーキラスは名字みたいなものだから、公爵名は違うのかな?
…………ん?待てよ?
公爵って……私の両親ってことだよね?会うの?今から?そうだよね、8歳の女の子が一人で朝食を食べるわけないよね。
そっかぁ~両親かぁ~。
…………。
どどどどどどどどどうしよう!!!!な、なんか急に緊張してきた!!え、どんな人達なんだろう?優しい?優しいよね!?私8歳だもん!!こんなに可愛いんだもん!!お父様とお母様って呼べばいいよね?パパとママ?いやでも公爵家だし。
ダメだ、ちょっと落ち着こう。大丈夫、マナリエルは私よ。
隣で両手を広げてスーハースーハーと深呼吸しているマナリエルを、ナディアはただ横目で見つめた。今日のマナリエル様はおかしい。いや、いつもおかしいけど。何か悩みでもあるのかもしれない。今日は少し気分転換ができる時間を作ろうと、ティータイムを計画するナディアだった。
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