第7話 相棒(銃士)

 俺は無言で椅子を立つ。

「あれ、銃士さん、外に出たら見つかってしまいます」

 メイドは声で俺を引き留めようとした。

「ちょっと甲板に行ってくる。すぐ戻る」

 俺はメイドの面影に見覚えを感じていたのだろう。自然と「すぐ戻る」という言葉が口から出た。

 先ほど男達が甲板に彼女を投げ入れた時、俺がいないことに気づいたはずだ。船内に隠れたのを疑う可能性がある。きっと男達はこんな会話をしているだろう――。


「あの男、波にのまれたか」

「いや、もしかすると知らないうちに船内に戻っているのかもしれない」

「そうだとしても、あの電子ロック付き手錠が銃を持たない銃士に壊せるわけがない」

「船内に隠れていても、あいつは無力だ。銃はこの通り俺らが持っているわけだし」

「素っ裸にしておいたから武器を隠せる場所もなかっただろうしな」

「つまりあいつのことは考えなくてもいいだろう」

「もう殺人魔はいなくなったのだから、宴でもしようじゃないか」


――と、ことが運んでくれたらいいのだが。

 彼らは考えを機械に頼っている。機械があれば安心だから、俺たちは機械が暴いたやつをぼこぼこにすればいい。だからこそ甲板の扉の前に人を割かない。

 ・・・・・・ほら、案の定誰もいない。

 俺はすっと甲板への扉に手を掛ける。大きな音をたてて万が一にも気づかれないように。扉の隙間から冷気が流れ出てくる。扉にかけている手に力を込め、ゆっくりと開く。

 甲板にいたのはやはり、俺の相棒だった。

「お前は身ぐるみ剥がされなかったんだな」

 俺はしゃがんで、甲板の端の方でうずくまっている彼女の手に自分の手を重ねる。彼女の冷えた手が、先ほどまでハーブティーを持っていた温かな手に温められる。

 彼女は最後に俺が見た時と同じ、茶色いワンピースを着ていた。特に暴行された様子もない。

「でも寒いよ。私薄着だもん」

 俺はそっと頭を撫で、立ち上がる。彼女の手錠姿を見るのはこりごりだ。

「船に俺たちを匿ってくれるメイドがいる。お前のこともかわいがってくれるだろう」

 彼女の凜としたまつげに雪がついている。

「さあ、行こう」

 手を出した時、体が大きく揺れた。

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