第4話 メイドと私(自動人形)

 私はゆっくりとベッドから体を起こす。

 先程ショートした腕も簡易的に修復し、熱をとるために、そして話し相手がいない暇を潰すために、浅い眠りについていた。

 話し相手――メイドを雇ったのは約1年前。ちょうどこの船の披露試乗会でのことだった。

 今より少し背伸びしていて、世界を悲観的に嘲笑っていたのも、個性のひとつだった。


「あなたは自動人形ですね。何故この船に乗っているのですか」

 1年前の彼女は果敢にも私に話しかけてきた。

「私は探検家で様々な場所を渡り歩いているんだ。そう、文字通り歩いてね。しかしそれをある貴族が不憫に思ったらしく、乗り物に乗せてやろうと今回の機会をくれたんだよ」

「船も自動操縦される時代、乗客も自動人形ならば、私達人間はなぜ生きている……生かされているのでしょう」

 禅問答のようなことを唐突に始めた彼女は、平民以上の身分にあるらしく高級な毛皮を羽織り、白い絹でできた手袋を付けていた。

「それならなぜ人間は私たちを作ったのかを考えればいいのではないかな。人間だって、私たちを道具として作りだしたわけだ。道具に使われるなんて、どこかのおとぎ話でもあるまいし、人間はそこらへん、心得てると思うけどね」

「……あなたは今までどこに探検しに行きましたか」

 私の答えは彼女を納得させるものだったらしい。

「海の底、空の中……塩の街、かもね」

「私もいつか読んでみたいとは思っていますよ」

「君はこの船に……家族は?」

 船に、と言いかけたところで彼女の瞳が曇ったので、同じ質問、つまりこの船に乗った理由、を返さないようにした。

 普通は自分が答えたいことを人に聞くと思うのだが、純粋に気になっただけであって本人に同じことを聞いて欲しいわけではなかったらしい。それも、かなり否定的に。

「家族は乗っていません。両親とも船酔いするので」

 見たところ十代前半だ。1人で寂しくないのかと聞こうとしたが、思春期の娘にとって家族は荷物ということもある。気を悪くさせないために言葉を飲み込んだ。


 急な殺気によって現実に引き戻される。

 この部屋の扉側の向こうにその正体がある。わざと私に気づかせるためにドアに来る直前から足音を立て、殺気を出し、注意を向けさせたのだろう。

 呼吸をするのを忘れ、生暖かい空気が私を包む。殺気は這いより、私の喉ぼとけに触れる1ミリ秒前に消えた。

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