第2話 部屋の中(メイド)
ミントの香りが部屋の空気を浄化する。生暖かい空気をごうごうと排出する空気孔の、かびくささが多少はましになるか。
先ほどの従業員の言い方だとシージャックとも殺人事件ともわからない。こんな不安な夜はご主人様と好きな植物の話をして安らぎたいところだ。雪も強くなってきている。雨だったら雷がなっていそうなほど、勢いが激しい。そういえば、雷と雪は同時に見たことがないな・・・・・・。
と考えたところで、思考が固まった。
私の窓からはぎりぎり甲板が見えるのだが、この極寒の夜に人影があったのだ。
甲板に通じるドアが開き、いかつい男達が小柄な男を甲板に放り投げた。小柄な男は口靴輪を噛まされていて手錠がかけられている・・・・・・どころか、全裸だった。いかつい男達はさっさと船の中に戻っていった。恐らくこの船に乗っていた誰かのボディーガードなのだろう。かっちりしたスーツをまとっていたが、スーツに着られていなかった。スーツに動作を制限されることない――そう、何も着ていないかのように――身のこなしであることが二三秒の間の動きでわかった。
発砲事件、ボディーガード、口靴輪、手錠。
恐らく外に放り出されたのは今回の犯人と疑わしき人物だろう。
このまま凍死するのを眺めながらハーブティーを飲むのか、と思うと心なしかミントの苦みが増した。
水上の天国、とも称される「ハイトラベラー号」のアメニティーは充実しすぎている。
具体的には、一人部屋なのにバスローブSML、スーツSML、メイド服やドレスまで、どれも男女両方用意されている。
メイド服が男女両方・・・・・・?
ジンジャーの辛みとカモミールのさわやかな香りが部屋を満たす。体を温めるように配合したハーブティーを、震える手ですすっているのが先ほどの「全裸だった男」。男性用のバスローブを着てもらったので今は全裸ではない。
彼は自分の名前を言わなかった。根掘りはほり訊こうとしても、「銃士だ」「疑われた」とそっけない返事しか返ってこない。したがって私は彼を「銃士さん」と呼ぶことにした。
「銃士さんは今回、一人で乗船されたのですか? 身元をはっきりさせられる人と一緒に乗っていたのではないのですか?」
彼は横に首を振った後、ハーブティーをまたすする。
「凍死するのを助けたのですから、少しはお話しましょうよ」
「お前は殺人鬼と一緒にいるのですから、もう少し警戒しましょうよ」
私の口調をまねした、のだろうか。質問にまともに答えないと思ったら、今度は煽られているのか・・・・・・?
「また極寒の甲板に戻って貰いますよ!」
「どこのメイドか知らないが、ありがとう」
・・・・・・ひどく変わった人を助けてしまった。
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