第7話

「降参だ! なんで俺の事見てんだよ」


「なんでって……」


 そう言われてもなぁと暫く考えて、俺は肩を竦めてみせた。


「うーん。お前が気付いてるとは思わなかったんだよ。そこまでジロジロ見てたつもりもないし。でも……なんだろう。松岡を見てるとさ、何かを、思い出しそうになるのかな。それがなんなのかは、俺にも判んない」


「そっかぁ。あれは何かを思い出そうとしてる顔かよ。難しいなぁ、まだまだ修行が足んねぇぜ」


 眉を寄せる俺に、友也さんがクスクスと笑う。


「変な所だろう? このサ店は。――ああ、また。更にややこしいのが来た」


 ドアの方を見て、友也さんが軽く首を振った。カランと鳴ったドアの方を振り返ると、俺達の学園の制服を着た少女が一人、其処そこに立っていた。


「こんにちは。あれ? 今日は依羅さんはいないの?」


 キョロキョロと店内を見回して言う。そして俺に気付いた彼女は、目を見開いて微笑みを浮かべた。


「今日は珍しいお客が来てんのね。何? 松岡の友達?」


「だから――。まあ、いいや。そうそう、俺の友達だよ」


 説明するのも面倒だと、松岡は等閑に頷いてみせた。


「ふーん。私、穂積ほづみ 綾香あやか。松岡の友達なら、同じ一年よね。よろしく」


 近付いて来た少女が興味深げに俺を見る。肩までの少しクセのある髪を指先でかき上げて、再び人懐っこい微笑みを浮かべた。


「友也さんの妹だよ」


「えっ?」


 驚いて見上げた俺に、友也さんがうんざりと頷く。


「恥ずかしながら、このやかましいのが私の妹だよ。名乗るのが遅くなったね。私は穂積ほづみ 友也ともや。こいつとは、十歳離れてるんだ」


「やかましいとは何よ! 私はお母さんから頼まれて、お兄ちゃんがちゃんと仕事してるか見に来てんじゃない。何かと大変なのよ、兄想いの妹としては」


 これ見よがしに腕を組むと、得意げな視線を兄へと向ける。


「営業妨害って言うんだよ、お前の場合は。兄想いを公言するなら、来ないでもらえると有難いんだがね、妹よ」


 本当にうんざりといった様子の友也さんに、松岡がケケッと笑う。その松岡の頭をバシリとはたいて、妹はカウンターに両手をついた。


 ニッコリと微笑みを浮かべ、兄に向かってグイッと身を乗り出す。


「女にそんな冷たい物言いをして。そのうち依羅さんに愛想をつかされましてよ、お兄サマ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る