第5話
「さっきのお前の言い方を真似るとしたら、『だいたいその似合わねーヘタクソな化粧がいただけないしィ、身の程を判ってないしィ』って感じだ」
松岡の言い真似に、店の客からクスクスと笑いが洩れる。今度は顔を真っ赤にした菊池が、多少の同情の為に笑わずにいた俺をギッと睨み据えた。
「あんた達って、サイテー! 帰る!」
「――俺も、入ってんのね……」
まあいいケド、と呟くと、菊池はフンッと顔を背けて立ち上がった。その彼女へと、松岡が右手を差し出す。
「お帰りでしたら、お会計をお願い致します」
「なんでよ! これはあんたの奢りなんでしょ!」
「確かにパフェの方はそうですが、お客様が飲まれましたアイスティーは料金を戴かないと。四百円になります」
「そんなの、こいつが払うわよ!」
言い捨てて立ち去ろうとする菊池の腕を、松岡がグイッと掴んだ。
「おフザけになられても困ります、オキャクサマ。――いいか。さんざん恥をかかせた男に払わせようなんざ、お前みたいな女に出来る事じゃねぇんだよ。それをしていいのはな、絶世の美女ってヤツだけだ。ブスは日々、大人しく生きてな」
低く言い放った松岡に、店中の空気が凍りつく。
――それって、言い過ぎ……。
ギリッと歯を食いしばった菊池がバンッと、叩きつけるようにしてテーブルに金を置いた。足早に出て行こうとする菊地に、松岡が更に追い討ちをかける。
「またのお越しを」
「二度と来ないわよ!」
「だろうな」
アハハッと高らかに笑う松岡を睨みつけながら、菊池は出て行った。
「いつまでも笑ってないで、他のお客さまに謝りなさい。――皆様、失礼致しました」
静かに頭を下げたマスターに肩を竦めてみせると、松岡は俺の腕を掴んで立ち上がらせた。
「お前も謝れ。失礼致しました」
深々と頭を下げる松岡に、「なんで俺まで」と思いながらも一緒になって頭を下げる。
頭を上げた松岡は、俺のコーヒーを持つとカウンター席の方へと持って行った。
「あっちで飲みな」
テーブルの上を片付けながら、松岡が顎をしゃくるようにして言う。俺が大人しくカウンター席へと移ると、その隣に松岡が腰を下ろした。
「まったく、お前は。
溜め息混じりに言ったマスターに、松岡はフンと鼻を鳴らした。
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