第4話

 声を張り上げて高らかに宣言した菊池に、「これってある意味、拷問だよな」と、一人心の中で呟いて俺は天井を仰いだ。


 その耳に、クククッと笑う松岡の声が聞こえてくる。


「――あのね。半分はお前の所為なんだけど」


 ジトリと呆れた目線を向けた俺に、松岡が振り返る。そして俺の顔を見止めた途端、今度はカウンターを叩きながら大爆笑しだした。それにつられて、今まで我慢してくれていたらしい他のテーブル席に座る二組の客からも、小さな笑い声があがった。


「失礼だよ、保」


 マスターがたしなめるように言って、呆れた目を松岡に向ける。


「だ……だって、友也さん」


 ヒィーヒィーと額に手をあてて笑い続ける松岡に、マスターがやれやれと溜め息を吐いた。目の前の菊池はというと、素知らぬ顔でアイスティーを飲んでいる。




 ――折角、店の雰囲気は気に入ったのに……。




 溜め息一つ吐いて、レシートを取り上げる。


「待てよ。帰るんなら、せめてコーヒーは飲んでけ。うちの自慢のコーヒーだ」


 言った松岡が、菊池の前に大きなチョコレートパフェを置いた。「何これ?」と見上げる菊池に向けて、愛想よく微笑みを浮かべてみせる。


「俺からの奢り。笑わせてもらったお礼さ。――それと。二人が付き合ってないって聞いて……。俺、心底安心したから……」


 照れながら意外な台詞を吐いた松岡に、俺と同様菊池が目を瞠る。「それって……」と手を口元にあてて呟いて、例の甘えた声と共に首を傾げてみせる。


「ありがとォ、松岡。――あの、私。松岡とだったら、その……」


 はにかんで微笑む菊池に松岡がニヤリと笑う。その笑いは残忍で、さっきの台詞は決して俺や菊池が考えているような、甘い内容ではないと思わせるものだった。


 ――というより、嫌な予感が……。


 逃げ出したい気分で腰を浮かした俺の肩を、松岡が片手でグッと押さえ込む。顔は相変わらず、菊池へと向けたままだ。


「……付き合っても――」


 言った彼女の台詞を遮って、突然ハッハと松岡が大声で笑いだした。


「そいつぁ、ご免蒙めんこうむる。俺にだって、選ぶ権利がある筈だぜ」


 ――やっぱり……。


 軽い目眩を起こした俺の前で、菊池が「なっ!」と顔色を変えている。戸惑いと敵意の籠る瞳で、キッと松岡を睨み上げた。


「……どーいう……意味よ」

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