夢の名

 みっつめの花言葉は「夢の名」


 匂蕃茉莉ニオイバンマツリは、私に夢の名を与えてくれた。

 もし、私が自由な鳥であったのなら、持つことができた名前。

 国のために生きなければならない女王ではなく、私が私のために生きていくことができる名前。

 胸の奥深くに隠した彼の姓がついた名前。


 ああ、そうか。

 ふたつめの花言葉「浮気な人」とは、私のことだったのかもしれない。

 私の結婚はそれこそ絵に描いたような政略結婚だったから、夫への愛情など心のどこにも置ける場所はなかったのだ。


 今はもう、私はベッドから起き上がることさえできない。

 女王として生まれ育てられた私の長い夢が、今、終わろうとしている。

 明日には、きっと、私は、天国の彼に会いに行くことができるだろう。

 でも、こんなにも年老いてしまった私を、彼はわかるだろうか。

 小さな女の子だった私は、こんなにもおばあさんになってしまった。

 でも、幼かったあの夏の日、私の胸に咲いた匂蕃茉莉ニオイバンマツリの花は枯れることなく咲き続け女王という高貴な紫色から、明日には無垢むくな白色に変わろうとしている。


 だから、きっと私の胸に咲くこの花を見れば、若くして天国に行った彼も思い出してくれるだろう。

 明日、現世という鳥籠とりかごから解き放たれ、純白の花嫁衣装で空に飛び立つ時、私は思いのたけを込めて羽ばたこう。

 花の香りを抱いて、ひたすらに羽ばたこう。

 あの夏の日の彼に会うために。

 現世では叶わなかった愛を、この胸に勝ち取るために。

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