籠の鳥と自由な鳥

 匂蕃茉莉ニオイバンマツリのふたつめの花言葉は「浮気な人」


 遠い夏の日。

 私に、この花を持ってきてくれた画家は、この花言葉を知っていたのだろうか。


 もし、知っていたのなら、婚約者のいる画家は、どんな気持ちで私にこの花を持ってきてくれたのだろう。

 たぶん、知りはしなかっただろう。

 良い香りがして日毎に色が変化していく花を、彼は子どもの私が喜ぶと考えたのだ。それとも、植物画の課題にしようと持ってきたのかもしれない。


 それでも私は、画家が浮気心を持ったのは、私なのか、私の女家庭教師ガヴァネスだったのか、どちらだったのだろうと考えるのが楽しかった。

 第一王位継承者である私と結婚するには、いくら宮廷付きの画家とはいえ、身分が違いすぎる。はなから無理というものだ。だから、画家は、私に一番近い女家庭教師ガヴァネスを身代わりに選んで、結婚したのだ。

 これが根も葉もない夢想だとは、分かってはいた。でも、胸の奥に隠した夢想に、時折ひたるくらいの自由は、私にだって許されていいはずだ。


 王位を継承した後も、結婚式の当日も、王子が生まれた後でさえ、この花の季節には、心の一番奥底からひっそりと答えのない問いが芽吹いてきた。

 籠の鳥と自由な鳥。彼が本当に愛したのは、どちらだったのだろうと……。

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