訃報

 二十歳で王位を継いだ日に、私は画家の訃報を知った。


 偶然、小間使いたちの噂話を耳にしたのだ。

 彼はやかたの若い娘たちには人気があったから、館を去った後もしばしば彼女たちの噂の種になっていた。

 私は小間使いたちに気付かれる前に、すぐにその場を立ち去った。


 画家の死を知っても、私は涙ひとつこぼさなかった。

 戴冠式を終えた私は小国とはいえこの国の女王であったから、過去の感傷などで感情をあらわにすることは、たとえ一人の時でさえ許されるはずもなかった。幼い頃から、私はそう教育されてきたのだ。

 

 画家の結婚は、どうやら長くは続かなかったらしい。

 このことも、後から小間使いたちの噂話で知った。

 彼の妻は三年も経たないうちに夫を残し、海を渡って一人で大国に移住したという。

 おばあさまの鸚鵡おうむや私とは違い、彼の妻、私の元女家庭教師ガヴァネスは、かごの外で十分に羽ばたいて生きていけたのだ。


 私は王位を継ぎ、二十二歳の初夏に政略結婚をした。

 匂蕃茉莉ニオイバンマツリが花盛りの頃だった。


 次の年には王位継承者である王子が生まれ、私は籠の鳥としての務めを一つ果たし終えた。

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