第5話ステータス
「おお〜、こんな感じなのか! 面白いな! 俺は《剣士 Lv20》《棒術士 Lv3》《斧術士Lv2》《火魔術師 Lv1》《氷魔術師 Lv1》《雷魔術師 Lv1》とか、あと他にも戦闘系っぽいのと非戦闘系っぽいのがいくつかあるみたいだ。剣道やってたし、ゲーオタだからかな? なあなあ、ヒロキはどうだった?」
「………………………………」
「おい、どうしたヒロキ?」
「……………………だよ」
「え?」
「……戦闘系は《遊び人 Lv1》だけだよ」
その瞬間、空気が凍った気がした。。
「ちょ、お前……。《遊び人》だけって、マジか?」
「ああ、マジだ……」
「他の職業はどうなんだ?」
「《農民 Lv2》《商人 Lv3》《料理人 Lv33》……」
「お前の家洋食店だもんな……」
「やめろ憐れむなそんな目でこっち見るな」
「いやだって遊び人って某ゲームでは最弱職じゃ」
「ああ知ってるよわかってるよ! 何でだよチクショウ!」
他の召喚者の様子を見てみると、さっきまでの緊張が嘘のようにはしゃいでいる。
一方の僕は、さっきの興奮が嘘のように落ち込んでいく。
聞こえてくる上では、僕よりも適性の少ない人はいないようだ。
くっそお。
「それでは皆、申告してもらおう」
コラスル王の呼びかけにより、召喚者たちが魔法薬を受け取った時と同じ順番で並び、次々と兵士に結果を申告し始める。兵士は兜を被っているため表情が分からない。申告された内容をただ黙々と手元の紙に書き込んでいる。
僕は最後に魔法薬を受け取ったため、前に並ぶ19人分の申告が終わるおよそ30分の間待つことになった。
これほど憂鬱な時間は久しぶりだ。
ようやく僕の番になる。正直恥ずかしくて言いたくないが、仕方ない。
周囲の視線が異常に痛く感じる。
兵士が僕に声をかける。
「結果の申告をお願いします」
仕方ない。いい加減覚悟を決めよう。
「僕の名前はクルマ ヒロキ、17歳、男です。Lvは1。HP、MPは共に110。適性
《遊び人》と言った瞬間、先程までずっと文字を書き続けていた兵士の手が止まった。
「……もう一度、適性職業を言っていただけますか?」
「はい、《遊び人 Lv1》《農民 Lv2》《商人 Lv3》《料理人 Lv33》です。……何か問題ありましたか?」
「……いえ、結構です。ありがとうございます」
なぜ二回も聞かれたのだろう。
《遊び人》は何かまずかったりするのだろうか。
名前からして地雷な気もするが。
幸い周りには僕の職業は聞こえていなかったようで、反応を示す者は誰もいない。
特に大きな問題もなく申告は終了した。これで一安心だ。
と、ちょうどその時、コラスル王が再び話し始める。
「皆の申告が済んだようだな。それでは一先ず解散とする。夕食の時間になったら使用人が迎えにいく。それまでは各々部屋で自由にくつろいでいてくれ。ミッチェル、召喚者の皆を部屋に案内しろ」
「はっ。では召喚者一同、私についてこい。王宮は広い。迷っても知らんからな」
返事をしたのは魔法薬の木箱を抱えていた兵士だ。ミッチェルはさっさと建物の外に出て行ってしまった。このままでは置いていかれてしまう。
急いで後を追わなければ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
なんとか他の召喚者たちに追いつくことができた。
ミッチェルはなかなかの健脚らしくかなりの早さで歩いていたため、追いかけるのが大変だった。
今向かっている王宮というのは、先程外に見えた城のことらしい。
「らしい」というのは、実際はどうなのかよくわからないからである。
ミッチェルに確認を取ろうとしても、
「あの、今正面に見えるお城が王宮ですか?」
「黙れ。お前らと会話するつもりはない」
というような有様だ。
諦めずに話しかけ続けたら、ついに無視されるようになった。
しかも、辛辣なのは僕に対してだけではない、他の召喚者にも同様の態度なのだ。
彼からはなぜか召喚者への嫌悪と拒絶の感情が伝わってくる。それも、尋常ではないほどに。
なぜそこまで僕たちを嫌うのだろうか。全く理由が分からない。
だがしかし、分からないことをこれ以上考えても解決はしないだろう。
ミッチェルから意識を逸らし、周囲の風景を眺める。
高く済んだ空。石畳の通路。明らかに日本とは違う種類の植物。ヨーロッパにあるものと近い形の、しかしどこかファンタジックな白亜の王宮。
そして何より……空に浮かんだふたつの月。
片方は地球と同じように白いが、もう片方は燃えるような赤だ。
やはりここは、地球ではない。
そう改めて思い知らされる。
僕のすぐ隣では、藍斗が右手を顎に添えながら歩いている。顎を触るのは、こいつか何かしら考えるときの癖だ。
藍斗が考え事をしているときは大抵生返事しか返ってこない。
こいつは放置しよう。
ミッチェルに無視され始めてからは黙々と歩き、ようやく王宮に到着した。どうやら正面の城で間違いなかったらしい。
あの施設はかなり離れに位置していたようで、相当な距離を歩いた気がする。
それにしても、なんて荘厳な建造物なのだろうか。遠目で見るのとは比べ物にならない迫力だ。
ミッチェルの後に続いて、僕たちも城内に足を踏み入れる。
しばらく王宮内をウネウネと移動すると、同じような扉が沢山並んだ廊下に着いた。
「ここがお前たちの部屋になる。時間になったら迎えを寄越す。今から部屋を割り振るから、どれが自分の部屋か把握しておけ」
ミッチェルが仏頂面で言い放った。
部屋を覚えても、自力でこの場所にたどり着くこと自体困難な気がするのだが。
「お前はこの部屋だ。とっとと入れ」
僕は端から数えて22番目の部屋を割り当てられた。扉にはご丁寧に『22』と番号が振ってある。内装は、まんまビジネスホテルだった。だが調度品のひとつひとつに素晴らしい装飾や彫刻が施されていて、全てが相当の高級品であることが素人目でも分かる。
丁寧な扱いを心がけねば。
もっと部屋の内装をじっくりと見たかったが、残念ながらそれほどの余裕がない。
とりあえず、肉体的にも精神的にも疲れた。色々と考えたいこともあるが、まずは身体を休めるのを優先しよう。
僕はそのままベッドに倒れ込み、意識を手放した。
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