第2話 なんでぱんつを見てるんですか?

 僕は愛砥勇気あいとゆうき。幼いときに両親が離婚して父親に育てられた。

 僕よりももっと母親を知らない妹、愛砥夢あいとゆめ。僕より二つ年下なのだけれど、あまり父に懐かずにずっと僕にばかり甘えてきた。僕は僕で母親のいない淋しさを紛らわせてくれる妹のことを溺愛してしまうことは自明の理であった。

 

 妹が中学生になり、僕は中学3年生。義理の姉のうみさんが高校2年生。2ヶ月だけ先に生まれた義理の兄のりくが中学3年生。そしてもう一人の妹となったふうちゃんが中学2年生という思春期真っ盛りの男女5人が同居する状況になって僕は気づいてしまった。

 どうやら僕はみんなのことが好きすぎるということに。

 曰く、実の妹になんか欲情しない。それが普通であるらしい。なるほどあまりにも一緒にいすぎて生まれたときから見てきているわけで、女性らしい体つきになったのはここ最近の出来事だ。

 しかし母親が居ない僕にとっては唯一の異性でもあったわけだ。実の妹に性的興奮をしてしまうようであれば、年上の義理の姉なんて目も当てられない。

 僕は修行を積むことを決意した。まずは妹はあくまで妹であり、女性としてはなんとも思わないことを確認しよう。


「ゆめー、今いいか」

「んー? はーい」


 ドアをノックしてから声を掛けると、部屋のドアが開けられた。マンションの頃は寝室だけは別でも日中はリビングに居た。新しい家に越してからはそれぞれ部屋があるから顔を合わせることも減ったな。夢の部屋もなにやら女の子の匂いがするし、ピンクやパステルカラーの多いインテリアからは乙女らしい感じがする。って早くも異性として意識してるじゃないか。

 かぶりを振って、頬を叩く。


「どうしたの? お兄ちゃん」


 初っ端から不審がられてしまった。昔から気に入っているクマのぬいぐるみや相変わらず仕舞うのが遅いこたつを見て気持ちを落ち着ける。

 しかしなんだ、女性として見ないようにするための修行中なんだとは言えないな。


「最近二人切りで話せてないと思って。まだ、みんなとは慣れない?」


 無難な会話を切り出す。突っ立ってるのもなんなので、電源の入っていないこたつに潜り込む。遠赤外線なんかなくても落ち着くものだ。

 妹の方を見るとこたつのすぐ隣に設置されているベッドに腰をかけていた。髪はゴム紐で束ねただけ、紺色のパーカーと白いミニスカートだけを履いているラフな室内スタイル。生脚が手の届くところで細かく動いてる。ぷらぷらと足を動かすたびにスカートが揺れる。全く落ち着かない。

 いや、これを見てどぎまぎしてはいけないわけだから、むしろしっかり見るべきだろう。

 まだ幼さの残る細くてすらっとした長い脚。少しも体毛が生えておらず、健康的できれいな脚だ。少しだけ丸みを帯びており、色気を感じる。もう子供じゃないよなあ、女の子って感じだなあ。……いやいやいや! 妹! これは妹! 色気なんて無い!


「っていうかお兄ちゃんは慣れすぎだから」


 じとっとした目で見られるが、果たしてそうだろうか。ずっと連れ添った妹の生脚ですら慣れないんだけど。今必死に慣れようと凝視しているけど、むしろ異性として意識してしまっている気がする。


「なんであんなにイチャイ……仲良くできるのかな」


 仲良く……ごくり。今この脚と仲良くなったらマズいことになる気がする。決してこの太腿に挟まれたいとか、膝枕したら気持ちよさそうなどと微塵も考えてはいないけど。前みたいに気軽に耳掃除を頼めるようにならないとな。今の話題は僕と新しい兄妹が仲が良いということだったか。どうにもあまり頭が働かない。


「仲良く出来ているとしたら嬉しいよ、僕は新しい家族のみんなも大好きだから」


 冷静に台詞を言うことが出来たと思う。うまく誤魔化せただろうか。僕はミニスカートから覗く太腿を凝視し続けているため、妹の表情は伺いしれない。


「それ! それなの!」


 妹はそう言うと、興奮したのか脚が開いた。ピンクのパステル! 乙女らしい!


「お兄ちゃんは好きとか言いすぎなの!」


 じたばたと脚を上下に動かす。もはやチラではなくモロ。しかし、ここで視線を外すわけにはいかない。妹のぱんつなんか見たってなんともねえっつーの、と言うのが普通の兄であり、ここで見るのを止めるなんて完全に負けを認めることに近い。凝視した上でなんともない。それしか道はない。

 妹のぱんつはまだ買ってからそれほど履いていないのだろう、生地はコットンでも少しも毛羽立っていない。ピンクの中に少し白い水玉模様が可愛らしさを増している。


「大体、お兄ちゃんの妹は私だけでいいのに」


 夢が興奮気味に何か言っているが、僕は興奮しないように努めるのに精一杯でそれどころではない。アニメキャラクターとか動物がプリントされた子供のときのぱんつとは違うというか、これはもう立派な女の子のぱんつだ。いつの間にこんなの買ったんだろう……。しかし男ってのはなんでこうスカートから下着が見えただけで興奮するのだろうか、布じゃん。冷静に考えておかしい。いや、冷静に考えておかしいのは僕だ。これは女の子のぱんつではなく妹のぱんつだ。超かわいい妹だとしても、妹は妹。落ち着け、僕はただ実の妹のぱんつを見ているだけなんだ……。息を吸ってゆっくり吐く。


「お兄ちゃんはそう思わないの?」


 え? 何が? 僕が冷静に考えておかしいか? おかしいけど、男には認めてはいけないときもあるんだ。僕は顎をさすりながら目を閉じた。視界が闇に覆われて安心を得られた。パステルカラーより闇のほうが心が休まるときもあるんだな。勉強になった。


「やっぱり、あの人が好きなわけ?」


 質問の答を考えていると捉えたのだろう、追加の質問がやってきた。あの人って誰だろう? 薄目を開けてみると、膝は閉じられていた。ふーっ、ぱんつが見えない。ってあれ? 今僕って安心しちゃってない? それってぱんつが見えたらドキドキしちゃうからだって認めちゃってない?


「そんなに真剣に悩まなくてもいいけど……」


 僕が悩んでいるのは、お前のぱんつのことだよ! とは言えないよ、ゼッタイ! 縞模様もいいけど水玉模様も良いよねとか、そんなことで悩んでないよ! なんとも思ってない、妹のぱんつなんかなんとも思ってない! でもまぁ、その嫌いではない。


「嫌いじゃあ、ないかな……」

「じゃあ、やっぱり!?」


 夢が俺の言葉に反応して、前のめりになる。そして股も開かれて、今度は僕が前のめりになる。違うぞ、これは断じて見たいからではない。修行だ。だいぶ慣れてきたのでそこまで興奮しなくなってきた。いいぞ、修行の成果が出ている! 思わずガッツポーズが出た。


「あの、お兄ちゃん? なんでさっきから私のぱんつをずっと見てるの?」


 !?

 バレてる!?

 いや、まだ誤魔化せる!


「はっ!? な、何言ってるの?」


 声が上ずってしまった。目が泳ぎまくっているのも自分でわかる。


「いや、どう見てもガン見してるし……この距離でその視線はもう間違いないし……さっきも見てたけど今は前のめりになってすぐ近くで食い入るように見てるし」


 もう無理だった。サーッと顔が青ざめる実感がある。終わった……僕の人生。


「見たいんだったら、見せてあげるのに」


 そう言うと、ベッドから立ち上がり、はにかむように笑った。え? なんだって?


「この下着、結構気に入ってるんだ、えへへ」


 夢は脳天に蜂蜜でも流し込まれているかのように思うほど甘ったるい声でそう言うと、両手で短いスカートの真ん中を握りしめ、少しずつたくし上げる。お、おいおいおい!? じりじりと太腿の面積が増えていく様子はなんとも色っぽ……いや! 妹の太腿なんかなんとも思っていない! そしてわずかに見え始める布地……さっき散々見たはずなのに、全然違うものに思える。なぜこんなに新鮮なんだ……偶然見えるぱんつとサービス精神で見せてくれるぱんつ……それぞれ別の魅力がある!


「ど、どう?」


 どうって!? ぱんつの感想を聞かれてるの!? 妹のぱんつを見た感想を兄に聞いてるんですか!? なんとも思ってない……とは言えないだろ、この場合。だって完全にわけで。どうしてこうなった……。とりあえず答えを頭をフル回転させて考える。困ったときは褒めるのが無難か……。


「似合ってるし、かわいいよ」


 浴衣姿でも見たときのようにそう言うのが精一杯だった。なにこれ……。こういうとき普通の兄妹ならどうするんですか? 誰か教えて? とりあえずお礼でも言っておく?


「あと、見せてくれてありがとな」

「あ、うん、褒めてくれてありがと……また、見たくなったら言ってね」

「う、うん……」


 恥ずかしすぎて顔もぱんつも見ることができないので、目を反らしながらそう言うのが精一杯だった。とりあえず言えば見せてくれるらしいので、修行はいつでもできそうだ、実にありがたい申し出。そうか、みんな兄妹はこうして特訓を重ねることでなんとも思わなくなるのか。なるほど納得、うんそうか。だから僕はおかしくない。ただのビギナーってことだ。妹ぱんつ初心者なんだ。そのうち「よう夢、ぱんつ見せて」「あいよっ」「おう、相変わらずだな」なんて会話が日常的に繰り広げられることになるんだろう。ただの仲良しの兄妹って感じがする! 楽しみだな!


 「えっと、そろそろ出かける準備をするから着替えるね?」


 着替え! そうか、そうだよな。着替えだってなんとも思わないのが普通だろうな。だって妹の着替えなんて見たってな。よし、丁度いい、訓練だ。

 腕を組んで夢の方をじっくりと見ていると、身体をよじりながら、真っ赤な顔をして叫んだ。


「着替えるんだから出ていってよ! お兄ちゃんのえっち!」


 え、ええ~? そういうものなの? ぱんつは見せてもいいけど着替えは見られたくない。それが妹心なの? 僕にはちょっとよくわからないんだけど……。


「ご、ごめん」

「いいから早く出ていってっ」

「いや、そうしたいんだけどちょっとまだこたつの中でテントを張っていて……」

「何意味わかんないこと言ってるの、もう、変態!」


 この状況で変態呼ばわりされると何も言えない。僕は前かがみの姿勢で部屋を出る。なんだかこの状態でゆっくり歩くと初号機みたいだな。最低だ、俺って……。

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