第2話:ダンジョンに……

 洞窟の中は、まさしくダンジョンと形容できるだけの様相をしていた。

 むき出しの岩肌に荒れた地面。空気が淀み疲れているわけでもないのに息苦しさを感じてしまう。

 エミリアは慣れているのか、地上と同じような歩調で進んでいくのに対して、春人はそれについて行くのがやっとといった様子だった。


「ちょっと、エミリアさん、早いですって」

「何言ってるのよ。これくらい普通の早さよ」


 声をかける春人を無下にして、エミリアはそのままの速度で進んでいく。

 春人としては引き返せばよかったものの、男の矜持なのか、女性の前で格好をつけたかったのか、エミリアに負けじと歩調を合わせてついていくことを決めた。


 そんな矢先、目の前から何かが姿を現した。


 ——ヒタ、ヒタ。


 荒れた地面には似つかわしくない足音に、春人は首を傾げながら通路の先を見ていた。

 そして、その何かを視界に捉えると目を見開き、声を出せず驚愕してしまう。

 春人の腰ほどの身長なのだが、耳はとんがり両眼が顔の半分を占めている。

 その手にはこん棒を握っており、二足歩行の何かがこちらを見ながらヨダレを垂らしていたのだ。


「あれは、ゴブリンよ」

「ゴブリンって、あのゴブリン?」

「ゴブリンはゴブリンよ。そこで待ってて、すぐに片付けるから」

「片付けるって、どうやって——」

『ギヤアアアアァァッ!』


 春人の言葉を遮るようにゴブリンが咆哮、目の前にいるエミリア目掛けてこん棒を振り回しながら突っ込んできた。


「エミリアさん!」


 声をあげた春人。だが、エミリアの表情には余裕が見える。


「雑魚は、引っ込んでなさい!」


 言い放つのと同時に引き抜かれたのは一丁のリボルバー。

 銃身がゴブリンに向けられたのとほぼ同時に引き金が絞られて——発砲。

 着弾と同時にゴブリンの体が炎に包まれた。

 悲鳴が岩肌に反響して鼓膜を震わせ、春人は思わず耳を塞いでしまう。

 そして数秒後——ゴブリンは黒こげとなり地面に倒れ付した。


「……今のは、いったい?」


 エミリアはただリボルバーの引き金を引いただけだ。それにもかかわらずゴブリンは着弾と同時に燃え始めた。


「その銃は、なんなんだ?」

「これ? これは属性弾エレメントバレットを撃ち出すための媒体、属性銃エレメントリボルバーよ」

「……そ、そうですか」


 聞いたことのない名前に困惑しながら、春人はエミリアの背中を追いかけるようにしてダンジョンを進んでいく。

 その途中で何度かゴブリンや別の化物モンスターと遭遇したのだが、その全てが属性弾エレメントバレットの餌食となり一撃で倒されていた。


 そして、何度か階段を降りていくと、大扉の前に到着した。


「今回は五階層だったわね」

「五階層? ……あぁ、確か最初の階段から合わせたら五回階段を下りたっけ」

「そして、ここがダンジョンの最深部よ」

「えっ? ということは、この中にいる化物モンスターを倒せば洞窟は無くなるんだな!」

「そういうことね。でも、最深部の主エリアボスはさっきまでの化物モンスターとはけた違いに強いから、甘く見ないでよね」


 そうはいうものの、エミリアは特別警戒しているようには見えなかった。

 だからかもしれないが、春人も大丈夫なのだろうと勝手に思ってしまった。


「扉の端に赤と青の宝玉が見えるでしょう?」

「えっと……あぁ、あれか」

「この部屋ルームに入るには、両方の宝玉を同時に押さなければ開かない仕組みなのよ」

「なるほど。それで一人じゃあ無理だって言ったんだな」


 頷いたエミリアはすぐに右側にある赤の宝玉に歩いていってしまう。

 春人は仕方なく左側にある青の宝玉に向かい、その前に立った。


「それじゃあ行くわよ! タイミングを合わせてよね!」

「りょうかーい」


 エミリアの声に、春人が応える。


「さん!」

「にー」

「「いち!」」


 ——ガチャン! ……ゴゴゴゴゴゴォォ……。


 宝玉が同時に押されると、大扉がものすごい音を立ててひとりでに動き出した。

 完全に開ききると、中からはダンジョンを進んでいた時とは明らかに違う圧力が感じられる。

 春人は、自然と手汗をかいていることに気がついてズボンで拭った。


「それじゃあ、行くわよ」

「お、お任せします」


 何もできない春人は、今回もエミリアの背中を追いかけて最深部へと入っていった。

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