見つけた洞窟の先で
渡琉兎
第1話:玄関先に……
少年は洞窟を見つけた。
それは唐突に目の前に現れた。
家を出た直後、洞窟と形容できる謎の入口が目の前に現れたのだ。
「……何、これ?」
当然、少年は困惑した。
家を出た直後にこれである。それも当然だろう。
一度家に戻り深呼吸を繰り返す。
そして、気を取り直して玄関をゆっくりと開けて見た。
「——ちょっと! なんで無視するのよ!」
「どわあっ!」
今度は見知らぬ美少女が家の前に腕組みをして立っていた。
「……えっと、どちら様ですか?」
「えっ、私? 私の名前はエミリア・C・ホークアイよ!」
「……はぁ」
「ちょっと! あんたが聞いてきたんでしょうが!」
腕組みのせいで強調されている豊満な二つの山が、怒鳴り声をあげたことで体が揺れ、同時にタプンと弾んでいる。
切れ長の瞳で睨まれながら何故かキレられてしまった少年は、困惑顔で視線を明後日の方向へと向けた。
「ところで、あんたの名前はなんて言うのよ?」
「お、俺ですか? 知ってて家の前にいたんじゃないの?」
「知らないわよ! 知るわけないでしょう、初対面なんだから!」
ならば何故家の前にいたのかを説明して欲しいのだが、名乗らなければ答えてくれない気がした少年は嫌々ながら名乗ることにした。
「……
「イカイ、ハルト? ……ハルトね!」
「まあ、間違ってはいないけど」
「それじゃあハルト、行くわよ!」
「行くって、何処に?」
「何処にって、決まってるじゃない——この洞窟によ!」
「いえ、結構です」
「それじゃあ行くわよー! ……って、えっ?」
「いやだから、結構です」
予想外の答えだったのか、エミリアはあり得ないといった表情で晴人を見ていた。
「……洞窟よ?」
「はい」
「……洞窟といえば、ダンジョンよ?」
「ダンジョン? なんですかそれは」
「……金銀財宝ざっくざくのダンジョンよ! なんで知らないのよ!」
「知らないも何も、ここは日本でそんなものありませんよ!」
「……ニホン?」
首を傾げるエミリア。
ここにいたり、エミリアは晴人との会話が噛み合っていないことに気がついた。
「……私のパートナー、なのよね?」
「いや、いきなりパートナーとか言われても」
「……えっ? マジで?」
「マジマジ」
愕然としているエミリアには申し訳ないと思いながら、晴人は一番重要なことを聞いてみることにした。
「ところで、この洞窟が玄関の前にあると邪魔なので移動させてくれませんか?」
「……無理」
「……はい?」
「だから、私一人じゃあ無理なんだってば!」
「なんでだよ! 勝手に人の家の前にこんなもん出しやがって、邪魔なんですけど!」
「ダンジョンの入口はランダムで出てくるんだから仕方ないじゃないのよ! 私がここに出したわけじゃないんだからね!」
「でも、どうにかできるだろ——んっ? 私一人じゃあ、無理?」
エミリアの言い方に疑問を覚えた晴人は、咄嗟に聞き返していた。
「……ダンジョンの入口は一度出てしまったら、攻略されるまで無くなることはないわ。だけど、私一人では攻略することができないのよ」
「それは、何故に?」
「ダンジョンの構造上、絶対にバディがいないと攻略できないの」
「バディってことは、二人ってことだよね?」
「当然じゃないの。だって、バディなのよ?」
晴人はそこでようやく合点がいった。
エミリアはダンジョンを攻略したい。だが、そこに行くにはパートナーが必要であり、目の前に現れた晴人をパートナーだと勘違いしたというわけだ。
「エミリアの本当のパートナーはどこに行ったんだよ?」
「……ない」
「えっ? なんだって?」
「いないわよ! 私にパートナーなんて!」
「……はあ?」
そもそもパートナーがいないというエミリア。ならば何故、晴人のことをパートナーと言っていたのだろうか。
「……だって、パートナーがいない
「エ、
「ダンジョンを探索するもののことよ。ダンジョンは、世界の理を歪めて現れると言われているの。だから、世界のエラーと呼ばれているわ。私はそんなダンジョンを攻略するために時空を旅する
「……時空を超えて、ですか」
完全なる予想外。そして、晴人の脳の処理能力を明らかに逸脱した情報に、思考が考えることを放棄しそうになる。
唯一考えることができたのは、時空を超えてきたから日本ではあまり見ない桃色の髪をしているのかー、という場違いなことくらいだ。
「そして、ダンジョンの入口を目にすることができるのは、
「ま、まあ、はっきりと……あれ? そういえば、父さんも母さんも、妹も何も言ってなかったな」
「おそらく、ご家族の方には資格がなかったんでしょうね。だけど、ハルトにはあると……ねえ、ハルト?」
「……な、なんでしょうか?」
急に改まってしまったエミリアに不安を覚えながら、ハルトは聞き返した——聞き返してしまった。
この選択を、ハルトはすぐに後悔することになる
「——お願いします! 私とバディになってダンジョンを攻略してください!」
体が直角になるくらいに頭を下げてきたエミリア。
胸元からは二つの山が作り出す深い谷間が揺れており、顔を赤くしながら顔を逸らす——目線だけは谷間に向いていたのだが。
「…………こ、攻略しないと、無くならないんですよね?」
「そ、その通りよ!」
「……危ないことなんて、ないんですよね?」
「それは! ……保証、できない、かも」
「マジかよ!」
「だって、ダンジョンなんだもの!」
ゲームやアニメの世界でも、ダンジョンといえば危険な生物が生息していることがよくある。
このダンジョンもそういうものなのだろうと晴人は考えた。
「……でもまあ、こんな経験普通はできないし、いいですよ」
「ほ、本当!」
「でも、絶対に守ってくださいね? 死にたくないですから」
「もちろんよ! 私が必ずハルトを守ってみせるわ!」
右手を左胸の前に持ってきたエミリア。敬礼なのかもしれないが、その動きのせいで激しく揺れる山。
ここまできたらわざとなのではないかと疑ってしまう晴人だが、もう少しだけこの山——もとい、エミリアと付き合うことになったので慣れなければと考えながら、とりあえずダンジョンに潜ることになった。
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