5

 しばらくは黙って祭りが終わってちょっぴり静かになった星空を眺めていた。

「帰らないとだめじゃない?」

 そしてようやく少女は現実に戻り、少年に帰るように促す。少年の方は興奮がまだ冷めていなかったが、渋々帰ろうと立ち上がった。

「あれ?」

 そこで少年はやっと大事なことに気がついた。もう辺りは真っ暗で視界はほとんどない。彼らがいるのは砂漠であり、目印になるようなものもない。だから街がどっちにあるかすらわからなかったのだ。

 普段はたいした距離ではないので街の見える方に進んでいけばすぐに着くのだが、街の明かりも消えてしまっているため、その影すら見えない。少年はここに来てようやく、自分がしでかしたことの重大さに気がついた。

 しかしうろたえる少年に対して、少女は至って冷静だった。

「大丈夫。そんなに遠くないし、大体の方向わかるから」

 そう言うと少女は少年の手を引いて、暗くて当てのない砂漠を踏みしめて進んでいく。二人で一枚の毛布に包まって、寒さに震えながらも着実に先へと進んでいく。

 少年の心配が無用だったどころか、少女が思っていた以上に簡単に街に戻ることができた。というのも、街が近づいてくるとたくさんの明かりが見えてきたからだ。どうやら大勢の人が明かりを持って辺りをうろついているらしい。

「よかった……」

 少年は安堵の声を漏らし、目に溜まった涙を少女に見られないように拭った。少女も張り詰めていた心が緩み、笑顔がこぼれた。

「母さん!」

 街のすぐ近くまで来ると、街の門の前に少年の母が立っているのが見えた。少年はそれを母に向かって大きく手を振って呼びかける。すると一瞬喜びの表情を見せたかと思うとすぐにその顔は鬼の形相に変わり、少年に向かって駆け寄ってきた。

「もう何してるの! 一体どれだけ心配したと……」

 彼女の中で怒りと安堵が交錯し、頬を湿らせながら少年を抱いた。少年は母のただならぬ様子を見て、ひたすら謝ることしかできなかった。

 徐々に周りから人が集まってきて、その人数が事の重大さを表していた。街の大人たち総出で少年を探していたようだった。

 落ち着きを取り戻した少年の母は、少女の存在に気づいた。母が少女の方を見ると、少年は彼女のおかげで助かったのだと満面の笑みで母に伝える。しかし少女の方はばつの悪そうな顔をして目をそらしていて、そんな少女を母は恨めしそうに睨んでいる。

「じゃあね」

 少女は消え入りそうなほどに小さな声でそう言うと、街とは逆方向に急いで走り去ってしまった。毛布を地面に落としたままにして。

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