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 それから数日の間、少年は外に出ることができなかった。あのあと母にこっぴどく叱られ、外出禁止を言い渡されてしまったのだった。そもそも少し前から街の外で戦争が始まっていて、街の外には出ないようにという通達が回っていたのだと言う。

彼女に毛布を返しに行かなきゃいけないのに、と少年は悶々とした数日を過ごしたが、いつまで経っても外出禁止令が解かれることはなかった。

 そしてついに我慢できなくなり、母が買い物へと出かけているうちにこっそりと家を抜け出し、街の人たちにも見つからないように裏道を通って街の外へと出ることに成功した。彼女に会いたい一心で、少年は必死に砂漠を走った。

 果たしていつもの場所に今日もいるのか不安に思ったが、着いてみるとそんな心配は無用だったようで、彼女の姿が見えた。どうやら寝ているようで、小さく丸まって横になっていた。

「おはよう!」

 少年は久しぶりに少女に会えた嬉しさから、飛び跳ねるようにして彼女に駆け寄った。しかし、かなり大きな声で呼びかけたのにも関わらず反応がない。仕方がないので軽く体をゆすってみるが、やはり反応はなかった。

 不思議に思った少年は少女の顔を覗き込んでみる。すると、彼女はとても真っ赤な顔をしてとても苦しそうに息をしていた。吐く息はひゅうひゅうと音を立て、額に手を当ててみるとものすごい熱だった。

「大丈夫!?」

 家から持ってきた水があるのを思い出し、少女の体を起き上がらせて、水を口に注ぎ込む。ほんの少し楽になったようで、呼吸が落ち着いた深いものに変わる。少年はそれ以上どうしようもできずにしばらく呆然としていたが、街に連れて行って医者に見てもらおうと思いつき、小さい体で必死に彼女の体を担ぎ上げる。背丈は同じくらいなので担ぐのには苦労したが、彼女は恐ろしいほど軽く、担いで歩くことは可能だった。

 とは言え、小さな子供が人一人を担いで歩くのは大変なことだった。少年は息を切らして全身を汗で濡らしながら、必死に街まで歩き続けた。そんな彼の頭は少女を助けなければという思いで溢れかえっていて、苦しみやつらさはこぼれ落ちて一切なくなっていた。

 街の門をくぐると、少年はもう体力の限界だった。街に入りさえすればという安堵感もあり、彼はその場に倒れこんだ。薄れていく意識の中で、街の人たちが心配して集まってくるのがわかった。

これで彼女も大丈夫だと思って張り詰めていた気持ちが一気に開放され、そのまま少年は眠りについた。

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