奪い取る

 有無を言わせず奪い取ることです。


●コンセプト


 難攻不落の防御をかいくぐって目的のものを盗み出す(ルパン三世、キャッツ♥アイ)


 依頼によって暗殺する。(ゴルゴ13、必殺仕事人)


 宝探しをする。(インディアナジョーンズ、トゥームレイダー)


 ハーレムを構築する。(ギャルゲーなど)


●考察

 いきなり横道にそれますが、「奪い取る」は実生活の中で実現しやすい楽しみだと思います。魚釣りや山菜採り、きれいな風景や映える物の写真を撮るのも「奪い取る」楽しみに分類されるでしょう。これらの行為は奪い取ることによるリスクや罪悪感が比較的軽微であることが特徴です。特に写真を撮ることに罪悪感を覚える人は、撮影禁止区域でなければほとんどいないでしょう。


 架空の物語でこの「面白さ」を描こうとするなら、主人公にリスクや罪悪感が大きくなる対象を奪い取らせる必要があります。犯罪、財産や膨大な時間を棒に振るリスクのある宝探し、法的なリスクや倫理的な罪悪感のある不倫や恋愛ゲームなどが候補となるでしょう。


 リスクや罪悪感、とひとまとめにしてしまいましたが、物語の中でこれらを処理する方法は全く異なります。リスクの方は特に問題ありません。万一失敗し、主人公が全財産を失ったり、死んでしまったとしても、所詮架空のキャラ。誰にも実害は発生しません。


 しかし罪悪感は違います。なぜならリスクはキャラが負うものであるのに対し、罪悪感は読者の側に発生するものだからです。主人公が罪悪感をあおるような行為ばかりするようだと、読者は物語を読み進めるのをやめてしまうかもしれません。読者の罪悪感をうまくコントロールする必要がありますが、そもそも奪い取るという行為に罪悪感はつきもので、完全になくすことはできません。


 実生活の中での奪い取る行為に目を向けてみましょう。釣った魚や山菜を食べるときに「いただきます」と手を合わせるのは、命を奪った罪悪感を感謝の気持ちという「良いもの」に変換するための儀式なのかもしれません。これと同じような仕掛けを発明できればいいのですが、実際問題としてなかなか難しいでしょう。娯楽作品としては以下に述べるような既存の仕組みを利用するのも手です。


 相手が悪人なら、それを懲らしめるというという口実で奪い取る行為を正当化することができます。いいことをする人には良い結果が、悪いことをする人には悪い結果が起こってほしい、という普遍的な感情に訴えるのです。財産を奪われたり殺されたりするのは、そいつが悪人だから。主人公がやらなくても結局はそうなる運命だ、と読者が納得するのを促すため、そのキャラがどれだけ悪人か、しっかりと描写する必要があるでしょう。「必殺仕事人」の場合は「依頼人」は常に虐げられた弱者です。仕事人が「仕事」を始めるときにはすでに亡くなっていることも少なくありません。仕事人の方も勝手な正義感で動くのではなく、きちんと依頼料を受け取ってからでないと動きません。命を奪うということにはたとえ悪人であっても相当の厳格さが求められるということなのでしょう。


 奪っても結局それを失ってしまう、というオチをつける方法もあります。奪い取るという行為自体が「悪いこと」なので、それをする側にも同じ因果応報が働くという理屈です。「ルパン三世」ではルパンたちが盗み出した財宝を峰不二子が横取りすることがありますが、この場合は仲間内でもあり、彼女が敵か味方かはっきりしない、感情移入のしにくいキャラとして設定されているので、それほど罪悪感は発生しません。不倫を題材とした物語の場合も、結局お互いに幸せになれないというような結末を用意している物語が多いです。


 奪い取ったものに正当な使い道を示す、という方法もあります。食物の場合、生き物の命を奪うことそのものより、それを無駄にすることの方により大きな罪悪感を覚えます。反対に奪い取ったものが無駄なく適切に利用されるなら、罪悪感は小さくなります。例えば金持ちから奪って貧乏人に与えるという、鼠小僧の話(実話ではないようですが)が典型的でしょう。「キャッツ♥アイ」では主人公の三姉妹は行方不明の父親を探すために特定の美術品だけをねらいます。主人公側に明確な目的があるなら、読者もそういうお話なんだな、と納得しやすいです。


 正当な使い道を示す場合、それが新たな「面白さ」に発展することがあります。「キャッツ♥アイ」の場合は、「奪い取る」「面白さ」から父親の行方の謎を解き明かすという、「知識を得る」「面白さ」(後述)に変化します。恋愛もので恋人のいる相手を奪い取った場合、奪う・奪われるの一方的な関係から、双方向の関係に発展するかもしれません。その場合は「パートナーを得る」や「関係を維持する」に変化するでしょう。「ルパン三世カリオストロの城」では、ルパンに奪われる形で悪党の手から解放されたお姫様、クラリスがルパンに彼女のパートナーになってほしいと懇願しますが、彼は断ります。これは彼が「奪い取る」キャラであり、「関係を維持する」キャラにはなり得ないと制作者が判断した、いうことなのでしょう。


 ハーレム恋愛物は罪悪感の処理の点において発展途上の状態にあるといえます。複数の相手を同時に全力で愛すことが果たして可能なのか、ということが常に議論になり、明確な結論には至っていないようです。


 このパターンは、奪い取ることによって生じる罪悪感をどうするか、というところが肝となります。既存の解決法を使っても良いし、独自の解決法を編み出してもいい。後者は困難ですが、作品のテーマ性を深めるのに役立つでしょう。

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