自己実現・回復に関するもの

取り戻す

 何らかの理由で失ったものを取り戻すことです。


●コンセプト


 奪われた栄光を取り戻す。(架空戦記もの)


 復讐する(昔のカンフーもの)


 誘拐犯やテロリストなどを説得して人質を取り戻す(交渉もの)


 奪われた恋人を取り戻す。(北斗の拳)


●ハイ・コンセプト


 改変してしまった過去を元に戻す(タイムトラベルもの、STEINS;GATE)


●考察

 この「面白さ」ではまず何が失われたのか、それから何を取り戻したいのか、それをハッキリと読者に伝えなくてはなりません。○○が奪われたから取り戻す、という事実のみだけではなく、そのせいで国や街が悲惨な状況になっているとか、大切な誰かを失いそうになっているとか、世界が滅亡しかかっているとかを生き生きと描写する必要があります。


 失ったものは財宝や世界の要になっているような特殊な品物、恋人や子供などの人物などの具体的なものである場合と、栄光や名誉などの抽象的なものの場合がありますが、抽象的なものの場合、物語が終わった時点でそれを取り戻せたのか読者がよく分からないかもしれないという危険があります。その場合は抽象的なものを象徴する具体的なモノ、例えば優勝トロフィとかお姫様との結婚とかを用意するのがいいかもしれません。


 どうやれば取り戻すことができるのか。その方法について説得力のある説明をしないといけません。その方法がフェアなものであれば勝負のルールになり得ます。ここから敵対勢力との奪い合いという、「勝負に勝つ」という面白さに変化するかもしれません。取り戻すのを阻止しようとする側の事情もある程度描写する必要があるでしょう。敵がなんとなく主人公を邪魔するだけ、にならないようにすべきです。


 最終的に取り戻したいものを得るための前提としてこれが必要、というものをたくさん用意すれば、ストーリーを引き延ばすことができます。この場合は敵側の事情を掘り下げるのがほぼ必須になるでしょう。でないと、まずこれが必要、次にあれが必要、意味もなく立ちはだかる敵を倒して……とただ必要なものを取りに行くだけの「おつかい」になってしまうかもしれません。


 あるものを取り戻したとき、これは本当に自分にとって必要なものだったのか、と主人公が苦悩する。そんな描写を入れれば、本当に必要なものを求めてもう一回、主人公を取り返しの旅に出発させることができます。取り戻すものがネガティブな場合、例えば親しい人を殺した仇を討つなどのストーリーの場合に相性がいいです。


 失った理由が主人公の過ちによる場合は、主人公が責任をとって原状復帰させる、というような贖罪の要素が入ってきます。ただ、ストーリーの最後まで贖罪で終わってしまうのはあまりにも寂しい。エンタメ小説であれば、過ち-原状復帰という構図そのものを破壊し、その上を目指すための工夫がほしいですね。「STEINS;GATE」はそこをうまく処理しています。


 世の中そんなに甘くない。何かを取り戻す代わりに何かを失わなければならない。このようなシビアな常識感覚が読者や作者にあるかもしれません。平和などを回復するために主人公や重要な人物が命を落とす、という物語はよくあります。その喪失感を成長や変化として提示し、余韻を残すこともできます。「魔女の宅急便」では主人公が魔力を取り戻す代わりに飼い猫と話ができなくなってしまいました。


 心理学者の故河合隼雄氏によると、主人公がいろいろなものを得るけれども、最終的にはすべてを失ってしまい、最初の「なにも得ていない」状態に回帰してしまうというのが日本の民話に特有のパターンらしいです。失った-取り戻したではなく、得た-失ったという、順序をひっくり返したパターンです。これにもある種の余韻があり、日常系のお話によく使われる手法です。日常系が日本で人気があるのもその辺に理由があるかもしれません。


 「取り戻す」は「敵を倒す」と同じくらいわかりやすい「面白さ」ではないでしょうか。「敵を倒す」の目的として使用することもできそうですね。

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