第29話 迷宮核に宿るもの

 第一に考えることを列挙する。地下空間の創造の仕方、要は効率的な穴の掘り方と地下空間の安全性を如何に確保するか、それとどんな高さ、大きさでどんな形状の階段を作るか、それに地下空間を作って、レベル上げ、自分の能力上げにどれくらい寄与するかを考えて、そもそも地下空間の創造はどれほどの優先すべき位置にある行為なのかぐらいか。


 効率的な穴の掘り方、"耕起"で地面を柔らかくしてから身体強化でごり押ししてがむしゃらに掘るのが一つ。これの問題点は至極明瞭疲れることだ。疲れる時点で効率的じゃないから却下すべきか。でも掘ってる最中に穴掘りのスキルでもゲットできたら儲けものだし一旦保留だ。次の方法として、これも最初は同じく"耕起"で柔らかくしてから地面に手を触れ干渉して土を動かして空洞を作ればいい。これなら愚直に土竜のように掘るときに嫌というほど湧いて一々邪魔になるであろう掘った後の土をわざわざ毎回運ぶ必要が無いしこちらを採用しよう。


 そして安全性の問題と言うのは即ち崩落のこと。崩落しないようにどうすればいいか。鍋などの土器を作った時のように"硬土"で壁や天井部分を堅く、強固にすれば解決にはならない。鍋など薄い土器ならそれで十分だったが表面部分を固めたところで崩落の危険を消すことはできないからだ。さぁ、どうすれば安心できるだろうか。うん?よく考えれば自分はなぜ"硬土"で表面だけ固めようとしていた?自分の魔力を表面よりも深く浸透させて干渉させてから"硬土"をかければ表面だけ固めることにならない。だが、そうすると安全には代えられないけども必要な魔力量がさらに増えるなぁ。


 それとここまで考えてまた新たに考えないといけないことが出てきてしまった。掘った時に出てくる大量の土、どこに廃棄、どう処理すればいいんだろうか。


 捨て場所が無い。ただ無為に土をせっせと積み上げてしまえば立派な小山が完成してしまう。迷宮に見たくないものを押しつけるように土を押しこんでしまえば現在の居住スペースが無くなってしまう。他にどこに捨てればいいのか。すぐに思いつかない。


 土の再利用策としては、地下空間の天井を支える柱にするってのもあるがそれだけじゃ全然余った土は減らない。それに地下空間の灯りの問題がある。地下空間を作るにしても日光が入らなければただの真っ暗闇で使いようがない空間になってしまう。"風船光球"で解決しようもあるが、それなら薄暗くても視界がある迷宮の方がよっぽどましだ。日光を入れることは地下空間の天井の一部排除、つまり地面にところどころ穴をあけることを意味するが迷宮入口の少し開けたこの場所に作ってしまえば、ここは穴ぼこだらけの明らかに異質な場所になってしまう。それも防がなければいけない。


 思いついた方から解決しよう。

 

 地下空間の光の問題は入口と実際の空間を分けて解決する。入口をここ迷宮と青い葉の木の近くにして、そこから地表と水平に一直線の道を掘り進め地下空間を山の森の直下に作れば穴ぼこを作っても木々の枝葉に覆い隠され目立つことは無くなる。


 だが、その穴の近くを通られたら気付かれてしまうという問題は解決できていないし、森の中で換気兼採光用に穴を作るということはその穴から外敵が侵入する危険を作るという新たな問題もできてしまった。


 ああもう、迷宮がもっと高い天井で広ければわざわざこんな考えれば考えるほど問題が噴出する地下空間作りなんて考える必要もないのに。まぁ、広ければ広いで怖かったし迷宮核をゲットすることもできなかったかも知れないけど、今となっては迷宮が狭いことがなかなか面倒になっている。広げようとしても迷宮の壁はなぜか干渉がほとんどできなかったので現実的じゃない。


 ここで、あっそうだと椅子を置いたまま迷宮にきびすを返し、元燻製器の下の引き出しから迷宮核1つを取り出して椅子に再び腰を下ろし、また思考にふける。


 この迷宮核で迷宮の大きさとか変えられないだろうか。なんかレバーとかスイッチとかあればこう操作すれば良いと分かるのだが何にしろ見た目はただの黒い球。取扱説明書も無い。こんなのでどうしたらいいんだ。


 無意味にくるくる回してみても何の変哲もない。やっぱりどうしようもないのかなと、素直に引き出しに戻そうかと立って迷宮の方へ向かおうとしたとき、これまた無意味かも知れないがふと試してみたくなったのでその場で試してみる。


 何を試すかといっても特に複雑なことではない、魔力を込めてみるだけだ。


 魔力を込める、これはもし迷宮核によって人為的に迷宮に影響を与えることができるならその影響を生み出すガソリンのようなエネルギー源が必要ではないか、それこそが魔力ではないかという後付けの推測もあるがそんなことよりもただ興味本位、これに尽きる。


 では早速。おにぎりを握るように両手で迷宮核を包み、ハァッ、と別途添付の掛け声を添えて魔力を迷宮核に注入する。うぉぉ。雷に打たれたことは無いので雷に打たれたとは言えないが確実に今、何らかの衝撃が体を駆け巡った。駆け巡ったよな。誰もいないのに心の中で、いない誰かに確認する。勿論返答は無い。無いけども確認すると少しだけ落ち着いた。


 ここでもう一回魔力を込めてみる。うん?魔力を込めているとき、自分の魔力がなんか吸われてる感触と、何か青い葉の木と魔力でつながっているときに感じる独特な感覚を覚える。試しに魔力を込めるのではなく手に魔力を載せて、それを迷宮核に触れさせると音も無く注入した訳でも無いのに消えた。これはこやつが吸ったのだろうか。何か生き物みたいだ。生き物みたいだと言えば、青い葉の木とつながってるときの感覚と同じだということが気になる。もしかしてこの中に精霊でもいるのか。


 精霊でもいるとしたらそれがこの迷宮に干渉する手掛かりになる。しっかりコンタクトを取りたい。


 おにぎりを握るように包むこと自体は変わらないが今度は握る力を強めて、魔力は注入するのではなく浸すぐらいドバドバ出してさぁ実践。


 

 「こんにちは。」


 うわっ!

 驚いたことで手からさっきまで握っていたはずの迷宮核を落っことしそうになって、焦って落とさないよう慌てて掴んで引き寄せる。

 

 ほっ、と安堵の息を一つ吐いたところで、


 はぁぁ、びっくりしたぁーーーーーー。

 何だこれ。というか、精霊語って感情を伝えるものじゃなかったか。はっきりと言葉が聞こえたぞ。精霊語じゃないのか、じゃなかったら何だ。更に日本語だった。分からん、分からんぞ。


 とか何とか一旦きちんと混乱した後、そういえば挨拶されていたんだと今更思い出し、精霊語と同じように心の中で、精霊語と違って感情ではなくはっきり、遅れながらも言葉を伝える。


 「こんにちは。」

 

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