第30話 遠慮無しの訊き倒し
「こんにちは。」
自分がそう言った後、何を聞けば、何から聞けばいいのか分からず、半ば思考停止した数秒が経ち、そして思い出したようにもっとも純粋な問いをこの黒い球に宿るものに問いかける。
「Who are you?」
何故だ、何故なんだ。こんなしっかりとした言葉で話す初会話、不意に出た謎の悪ノリで片言な英語で質問してしまった。自分なら初対面かはさておき初会話でこんなこと言う奴嫌いだ。
「I am a guard of labyrinth and ~ 」
はい、私が悪うございました。英語聞き取るの苦手でなんて言ったか分かりませんでした。てか英語も話せるんですね先輩。
日本語で聞きましょう、最初からそうすべきでした。
「もう一度すいません。あなたは誰ですか。」
「私はこの迷宮の番人、いわば守護者。そしてあなたを生み出したものだ。」
番人、守護者。今会話をしている相手はそう言った。精霊ではないのだろうか。それともう一つ聞き捨てならないことを言っていた。自分を生み出したものだと。
「私はどうやって生まれたんですか。」
「あなたは迷宮の挑戦者を迎える尖兵として生まれた。通常は魔物だが、拾った霊がとても低い確率ですが偶然にも人間、あなただった。しかし本来迷宮から生まれたものは迷宮から出ようとはしないようにしているものだが私の力が弱かったのか何なのか、あなたは迷宮から生まれたが、明確な自我と記憶を持ち、迷宮から出たことによって迷宮の管理下から外れた一人の人間となった。」
霊。自分の霊がこの黒い為に宿る迷宮の番人と名乗るものに拾われたことによって二度目の生を頂戴できた訳か。命の恩人だな。もう死んだ後だけど。
でもなんで尾崎友斗という自我が残っているんだろう。
「なぜ自我が残っているのですか。」
「自我が残る理由は様々多種あるが生きたいという欲が無いものは失われるので少なくともあなたは前回の生でもっと生きたかったのだろう。自我とは即ち大部分は記憶から形成されるのでその記憶が失われなかったことにより、あなたという存在も残ったことになる。」
ふむふむ。やっぱり生きたかったんだな自分。不老不死なんて家族が死んで友が死んで独り残されるというデメリット差し引いても自分にとって憧れでしかなかった。
よく無いものねだりをした餓鬼な自分を宥めるように生とは死あってこそのもの、永遠の命なんてものは存在しないし死から逃げることは生きることから逃げることに等しいんだなんて悟りきった考えが生と死のテーマの作品には定番かのようにあって、一応理解することはできてもそんな生き続けることを諦めただけの考えはどうしたって嫌いだった。でもそれが自分を残す命綱になったのかもしれないと思ったら永遠の命が欲しいという自分にとっては純粋で他人から見ればひねくれたように見えるかも知れないこの考えも捨てたもんじゃないなと思えた。
それにしてもこの自称自分を生み出したものは聞かれるがまま、こんなに情報を明かしてくれるんだろうか。尖兵とか言ってたし、正直自分なんて使い捨てるかのように生み出したものではないのか。
「なんでこんなに教えてくれるんですか。」
「先程私はあなたのことを尖兵として生み出したと言ったが、実際、小っちゃくて辺境にある発見されるかもわからないこの迷宮で私は独りだったので私と違う他者が存在して欲しかった、寂しかったというものが大きい。まさか人間を生み出すとは私としても予想外だったが。後、あなたはこの迷宮の初めての踏破者であり、迷宮核に魔力を流したことによりあなたが迷宮の代理人として契約されているからだ。」
寂しい?人っぽいところもあるんだな。それとまぁ名義上踏破者っていうのは理解できるけど代理人ってなんだ。魔力を流したら契約したことになっちゃうなんて大丈夫なのか。契約したなんて意識無かったぞ。
「迷宮の、代理人?って何ですか。」
「迷宮の代理人とは、この迷宮を拡張、収納などの操作をする権限が一部与えられた者のことを指す。迷宮の代理人の義務としてはこの迷宮を粗末にしないことだろうか。目指してもらいたいのは迷宮の発展。発展の進度は自由だ。」
えー・・・、嫌だな、迷宮の代理人。そもそも契約って双方の同意あってのものだろう。勝手に何らかの行為をしたら、はい、契約しました~~なんて横暴すぎる。こんなのいちゃもんに近い。
それに自分は何時か準備が整ったら世界を見て回りたいんだ。こんな極小迷宮に縛り付けられるなんて嫌だ。もしかして一生このまま?生き返らせてくれたのは本当にありがたいけどこれは断固拒否したい。でも、今相手に何言っても無駄な気がする。どうしようか。
「迷宮の発展って目安はあるんですか。」
「特に無い。」
勝った!目安が無いなら自由に逃げだしてもOKということに等しい、多分。でも迷宮の拡張って今の自分にはありがたいことなんだよなぁ。うーん。そういや迷宮の収納って何だ?
「そういえば迷宮の収納って何ですか。」
「迷宮をこの迷宮核に仕舞うことだ。」
こんな黒い普通の球に迷宮を仕舞う?そんなことできるのか?いやもう詮索は止そう。やってみりゃ分かる。でももし仕舞えるなら迷宮に縛られずに移動できるかも知れない。
「迷宮を拡張したり収納するために必要なものってなんかありますか。」
「魔力や気がある。直接迷宮核に注ぐ方法や迷宮内に入っている生き物から一部吸い取らせてもらう方法もある。吸い取る量はある程度調整が可能だ。」
魔力は知っているけど気ってなんだ。そんなオカルトあるのか。否、そう言うなら魔力も十分オカルトか。それで吸い取る方法には二つ方法があるのか。それにしても吸い取るって量によったら怖いな。あ、でも自分が吸い取られてた形跡はないし、この宿ってる奴はおそらくしなかったな、何でだろ。
「僕のは吸い取らなかったんですか。」
「あぁ、忘れていた。あなたはもともと私が生み出したものだからな。」
これを優しさと受け取るか、案外抜けてると受け取るか。まぁいい。訊きたいことを訊こう。
「収納すれば、迷宮って持ち運べるんですか。」
「まぁ、やろうと思えばできる。」
何か迷宮が持ち運べるって自分の迷宮観が音立てて崩れるな。まぁ、持ち運び確定だな。まだまだ訊きたいことは数えきれないほどあるが、一旦訊くのはこれぐらいでいいか。否、まだ一つあった。
「あなたの名前は?」
「ロドアだ。」
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