第18話 拠点開拓とその危険

 また今日も狩りに行こうかとは思ったが止めた。まだ狩りには1回しか行っていない。魔力隠蔽と魔素同調のスキルもまだまだ理想より全然低い。あの大鷹のように今の自分では敵わないような脅威にまた次会って逃げられるかは分からない。気まぐれで殺されるかもしれないし生かされるかもしれない。生殺与奪は自分ではなく、見知らぬ脅威が握っているんだ。そんじゃあ狩りに行くかみたいに流れるように言って殺されるのは嫌だ。この日は狩りの日、と決めてきちんと阻害にならない程度の緊張感を持っていこう。


 と、それらしい理由を言って止めにする。今自分はほかに気になっていることがある。それはこの周囲を拓いて拠点にするか否かだ。青い葉の木の下である程度の安全が確保されているとしても、自分は今自然の生態系の1つに組み込まれていることを忘れてはならない。もし、ここを離れ、旅をしているときに油断する癖がつく。自分の身は自分で守らないといけない。その為にやろうとしていることは、物見やぐらのようなさらに高くから周囲を見る場所の設置、逆茂木のように周囲を囲って防護する柵の設置、道に迷わないように辺り一帯、等間隔に目印の設置だ。ここは比較的なだらかだが山の中腹に当たり、辺りの森を少し上から見ることができるのは確かだが、物見やぐらのようにさらに高いところから周囲を警戒することができるのは魅力的だ。逆茂木のように周囲を防護する柵などがあれば外敵の侵入を防げるし、音が鳴る仕組みなどを作れば周囲の敵をいち早く察知できる。道に迷わないようにこの山、森一帯に数字を刻んだり、どの方角に迷宮があるかを示す目印を設置すれば、更に行動範囲を広げることができる、


 どれも魅力的でやれば生活がさらに盤石なものとなろう。しかし、これらには共通の問題点がある。自分の種族がステータスで人族と表示されたことから見てこの世界には人が存在する。今まで上げていた案はすべて行えば人為的に設置されたものだと一目で分かるものだ。この近くを通った人からすれば、この付近に人が住んでいますよーと自ら宣伝しているに等しいのだ。今まではこの迷宮の近くにずっといたため、もし人がこの付近を通っていたとしても、ものすごい魔力感知ができない限りここに自分がいることはばれない。だが、このような拠点づくりを一度してしまえばその危険は飛躍的に上がる可能性がある。全く上がらないかもしれないがこれはあくまで可能性だ。


 そして人と会うことをなぜこんなに恐れているのかだが、まずそいつとは会話ができないのが必然だ。ここはあのとき生きていた世界とは明らかに別の世界。ステータスなんて本当は奇妙なものがあり、1m超えの高さの猪が闊歩する世界。全く見たことが無い花や草がある。何しろ迷宮なんてその最たる例だ。そんな世界の人が都合よく日本語を話すだろうか。いや、ないだろう。勿論、日本語を話してくれるのは大歓迎で諸手を上げて喜ぶべきことだが、妄想じみた期待は危険だ。たまたま遭遇したか、自分がここに生きている痕跡を追ってやってきたのかは別にしろ、話す言語が違っているのは分かっても何語を喋っているかを判別不可能なことも問題だ。目の前の人が中国語を話していれば、聞き取って意味が理解できなくても中国語を話しているかは分かる。だが、全く知らない言語を話されてもそれが何語かなんて判別できる訳がない。もし言語スキルを1つ取っていたとしてもその言語と違う言語を話していたら意思疎通が難しい。ボディランゲージで乗り越えるなんて言語道断とは言い過ぎかも知れないが危険なことは間違いない。ジェスチャーなんて国ごとでは意味が大きく変わるし、反対の意味になることも珍しくない。ましてや別の世界。それぞれのジェスチャーに全く予想していない意味が込められているかもしれない。戦意が無いことを伝えるために両腕を上げたとしてもその仕草が全く違う意味が込められていて逆に威嚇なんかに受け取られたら最悪だ。下手にジェスチャーはできない。そして自分が日本語を話すことが分からなかったとしても何かしら言語を話していると認識されるだろうかも心配だ。もし、言語とすら認識されなくて山の中で一生を過ごしている人の言葉が分からない猿同然だとして人間扱いされずに捕まえられたり討伐対象になるかもしれない。後、ここに住んでいる場所がどこかの国の中なのかもしれないということも不安材料となる。日本では日本国内の土地を国か個人か誰かが所有していて、家を建てるときはその土地を所有したりして使えるようにしないといけない。この世界も国があるとしたら国ごとに文明の成長度は違うかもしれないが、この世界大体の文明度はどれくらいかにもよって変わるがここに住んでいることが違法になるかもしれない。可能性だがそうなれば自分は無戸籍者の犯罪者になってしまう。それは怖い。そうじゃない可能性も十分考えられるが、初めて人と会うことはこれだけの厄介なことを背負わないといけないことになってしまうということだ。ずっと自分一人は寂しいし、この世界の料理や名所を旅してみたいがそのときは人と会うことを自発的に、自ら選んでいる。その対策もした上でだ。だが今は全然そんな準備はできていない。一番は言語スキルを獲得して人と話して意思表示できるようにならなければいけない。けど、これもさっき言った通り相手が何語を喋っているのかが分からないためスキルの選択が難しい。とりあえずは必要スキルポイントが少ない言語から獲得していこう。その為にはレベルアップが必要、つまり戦わなければいけないということだ。即ち、戦うことは避けられないようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る