第17話 鍋蓋づくりと燻製肉
雨が止むまで眺めていようと言ったが、撤回だ。
理由は単純明快、夜になっても止まないからである。
お腹の感覚で現在は午後6時から7時の間くらいだろう。肉食べるときにこの鍋使えないかなと鍋を視界に入れたその時、私は今日、重大な失態を犯してしまった事に気づいてしまった。そう、鍋というのに鍋蓋を作り忘れていたのである。これは何たる失態。いかなる処分も下される所存である。
厳正なる裁量の結果、自分は鍋蓋を作ることにした。
たかが鍋蓋、されど鍋蓋。鍋における鍋蓋の役割は計り知れないものがある。鍋料理では煮込んだり、加熱するものだが、その際、鍋蓋の有無はその結果を大いに左右することだろう。蓋をすることによって、無駄な蒸発を防ぐことで熱を逃がさず、速くエコに水を沸かすことができるのだ。
そんなことを半分ふざけ気味で考えつつ、鍋蓋を作った鍋に合わせて作っていく。今度は蓋だからと厚めにして両手で無言でこねていく。前世でも今世でも利き手は右利きだったが、できれば今度は両利きになりたいなと計画性ゼロの欲望を頭の中で垂れ流しながら体は真面目に動かし、鍋のつかむところの成形に取り掛かる。鍋蓋本体とは別個に形を作り、できあがったら本体にギューと押し付けて接合させる。一応鍋蓋の形が整ったところで蒸気口を鍋につけておく。こうしておくことで吹きこぼれを防ぐことができるはずだ、多分。沸かしたことないからこの穴のサイズでいいのかどうかは未来の自分のみぞ知るのだ。
と、鍋蓋の成形が完成したところでじっくりと"脱水"と"硬土"の処理を行い、鍋の時に使った火魔法、尾崎友斗命名、"帯火"で焼き固める。焼いた後は、水をぶっかけて冷却して触れるぐらいの温度になったのを見計らって手の甲で叩き、陶器のような音に変わっているのを確認して鍋蓋づくり終了となる。
作っている途中にお腹が鳴っても我慢していたがやっと食べられる。手をくまなく"清浄"して、肉を手から出した火で直接炙って食べていく。やっぱり空腹で食べるものは美味しく感じるなぁ。食べ終わったら肉をまた凍らせて口や手をしっかり"清浄"して、もう一緒頑張って全身も"清浄"する。風呂に入れるのはいつの日か。寝る場所を吟味して、決めたらそこを手から風を出して、綺麗サッパリにする。"掃風"とでもしておこう。目を瞑っていつの間にか意識を落として眠りにつく。
朝起きて、寝転がったまま魔力循環をして体を温めて体を起こし柔軟をしっかりやった後、肉と対峙する。朝からこれを食べるのか。これしかないのか。調味料も一切なく、調理と言えるものなど全くせずに毎日毎日同じ肉を食う。臭みもないし確かにおいしいかもしれないが、焼肉なんて人によってたまの定義は個人差あるかもしれないがたまに食べるからおいしさを感じるのであって、焼肉のたれも無く、白飯も無く、毎日三食肉を食うのは自分にはしんどいものがある。だからと言って自分にはもう木の実も残り少ないしこれだけなのだ。飢えとは違う苦しみがそこにある。否、他の味に飢えていると言い換えられるかも知れない。だが、生きていくためにはこれを食べるしかないのである。とか何とか苦行みたいなことを言ってみたが、今はまだそこまでではない。いずれなるかもしれないが今はまだ普通に食べられる。だからこそ今のうちに調理法開拓を行わねば。
しかし、調理法開拓とは言ってはみたものの包丁が無ければ本当にできることは限られる。切って薄く加工など今は難しい。ならばどうしようか。昨日の鍋蓋を作っている間に考えた案を今ここで出す。燻製だ。だが自分はまだ19歳だった故、酒のつまみに燻製を食べるなんてこともなく、実は今まで燻製したものを食べたことは無い。従って、言わずもがな燻製をした経験もない。煙でいぶすとか、桜や林檎のチップで香りをつけるとかぐらいしか知らない。煙でいぶすなんて、燻製という言葉を知っていたら誰でも知っているし、ここらへんに林檎なんて見当たらない。もう知識は尽きかけている。
しょうがない。まずは何となく燻製についてテレビでやっていたことなどを記憶の奥からかき集めていこう。否、その前に外に出よう。燻製をするにしても外でやったほうが煙がこもらないだろうし、もう何より雨の降っている音がしない。ここにいる理由は無いんだ。筋肉痛もおかげさまですっかりとれたので、躊躇なく身体強化をして、肉と鍋を外に運び出す。外に出てみると雨の後もあってか空気が澄んでいて気持ちがいい。その場で口の中を"清浄"して、毎日の日課である青い葉の木の水やりをする。昨日途中からずっと雨が降っていたので今日は水は要らないだろうと魔力だけを出して木の根元に振り掛ける。魔力を帯びさせた手を伸ばして木に触れると嬉しいというような感情が伝わってくる。喜んでもらっているのか、よかったよかったと思い、ありがとう。どういたしましてと気持ちを込めてこちらからも感情を送る。いやー、これは実にいい。全然しんどくないのに精霊語のスキルは上がっていくし、この木からは喜んでもらえるし、本当に嬉しいな。暖かい気持ちになって鍋の下に戻り、燻製について考える。煙で肉を効率的にいぶす為には少し覆ったほうがいいんじゃなかろうか。頭に手を当てて考える。土で覆って、ものを入れるための場所をつくる。それだと煙がものを入れるところから出てしまうか。否、そうじゃない、上を空けて、蓋ができるようにすれば基本は煙が逃げなくできる。後は煙を逃がすことができる栓付きの小さい穴もつけようか。全く知識が無いもんだからこれであってるかすら分からないが作ってみないと分からない。作ろうか。
どんなものを作るかは分かったが、どうやって作ろうか。ちょっと考えて昨日と同じ感触の粘土を出して、長方形に成形する。それを3回折り曲げて四角柱の枠にして大きさを整えた後、底に粘土を張り付ける。張り付けた後はそれを地面に立てて、粘土で底の裾を広げそこに手ごろな少し大きい石を置いて固定する。今度は張り付けずに天井を作りそれを上から載せれば蓋になる。蓋は一応半球の形にしておく。穴は一応忘れずにしっかり作る。そしてそこらの草を引っこ抜いたり、落ちてる枝を近くから拾ってくる。それら全部を完全にはできないが"脱水"していき、水分を抜いていく。またそこらの草を引っこ抜き、今度は"脱水"せずに置いておく。
あっ、そういえば燻製する肉を置く場所を作ってなかった。よかった、まだ焼き固めてなくて。蓋の裏に吊り下げるフック的なのを作り、木で刺した肉を置く場所も作る。木を回せば肉もむらなくいぶせるかも知れない。あとは燃やすものを引き出しの様に出し入れできるようにする。これが一番難しい。時間がかかったが、これでいいだろうか。確認を終えたら昨日の鍋たちと同じように"脱水"、"硬土"、"帯火"をして焼き固めていく。これで燻製器の完成だ。ここまでするのに3時間はかかったかもしれない。最後の木の実を気休めに食べて水を飲んで休憩する。
引き出しに生の草と乾燥させた草を7対3ぐらいで入れて燃やしていく。うん。これでいいか分からない。まぁ1回やってみよう。肉をフックに吊り下げ蓋をする。大体半時間ぐらいしたところで出してみる。うわっ、煙すごいっ。ごほっごほっ。ふぅ。それでは、一口と思ったところで手を戻す。何やってんだ自分。燃やした草に毒あったらどうするんだ。ハァ、毒の確認って面倒くさい。さっそく鍋を使うことになるとは。燃やしていない草を全部水を入れた鍋に投入して水を沸かす。結構熱くなったら混ぜて、粘土の余りで作ったコップに少し一掬いして、また水を足して薄めて飲むがステータスでは変化が無い。徐々に濃くしていっていくが最終的には毒が無かったみたいだ。一応安心して肉を食べる。いつも食べている味と少し違う。飽きたときは1回これに変えるのもありかも知れない。だが、そんなことよりもとにかく準備疲れたーーと心の中で叫びながら大の字に寝転んだ。しんどい、調理法開拓は茨道。
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